藤田嗣治挿画本「小さな職人たち」「四十雀」のご紹介

こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

これまでも何度かブログでご紹介してきましたが、
フェーブオールド・ジャパン陶磁器などのように「小さくて愛らしいもの」は、
時代や国境を超えて私たちの「蒐集欲」を掻き立てる不思議な魅力があります。

フランスと日本で名声を確立した日本人画家・藤田嗣治もそんな「小さくて愛らしいもの」に魅了された一人。
ただし彼の場合それは、「蒐集」活動ではなく、「創作」活動。
手先の器用さと純粋無垢な子どもへの愛情で生み出したそれはやがて、藤田の晩年を代表する傑作となりました。


藤田の作品といえば、大画面に描いた裸婦像や、「秋田の行事」などの壁画、また従軍画家として描いた数々の戦争画など大画面で迫力のある作品が印象的。

しかし、第二次世界大戦を経て再びフランスに渡ってからの藤田は、まるで心の安寧を求めるかのようにとりわけ小さな画面の作品に力を入れていきます。

藤田のアトリエの写真

 

なかでもよく知られるのが、自宅アトリエを装飾する目的で作り始めた連作。
元々縫物やマケット制作など細かい作業の得意な藤田は、15cm四方の小さなファイバーボード(繊維板)に「大人に扮して仕事をする子どもたち」をユーモラスなタッチで次々と描いていきました。
“私の巴里のアトリエの壁面には二百何枚かのこの小品を張り付けた。あたかもタイル張りの如くにした。(中略)皆釘付けであった”
(夏堀全弘「藤田嗣治芸術試論」より)

蒐集ではなく、自ら創造し続けた小さな作品たち―通称「小さな職人たち」-は、
実子のいなかった藤田にとって、実の子どものようにそばに置いて愛すべき存在でありながら、同時に周りに自慢したくなるようなとっておきの存在だったのかもしれません。

晩年の藤田がアトリエのインテリアとして楽しんでいたこのシリーズは、藤田のもとを訪れる友人の芸術家や出版らたちを驚かせ、2作の版画集として出版されることとなりました。

それが今回ご紹介する、「小さな職人たち(原題:しがない職業と少ない稼ぎ)」と「四十雀」。
制作年や技法は異なりますが、いずれも同じ出版社のもとで制作された双子のような作品です。

(上)「小さな職人たち」 (下)「四十雀」

 

『小さな職人たち』

「小さな職人たち」
(原題:しがない職業と少ない稼ぎ)
Petits Métiers et Gagne-Petit 

出版元:ピエール・ドゥ・タルタス
制作年:1960年
技法:木口木版
部数:限定261部
テキスト:アルベール・フルニエ、ギイ・ドルナン
収録挿画点数:21点

『四十雀』


「四十雀」

LA MÉSANGÈRE

出版元:ピエール・ドゥ・タルタス
制作年:1963年
技法:リトグラフ
部数:限定261部
テキスト:ジャン・コクトー
収録挿画点数:21点
 

以下は収録作品の一部です。
1900年代初頭までは、パリの街頭であちこちに見られていた職業たちに扮する子どもたちが愛らしく、ユーモラスに描かれていますね。
(ガラス売りやすみれ売りなど現在では消え去ってしまった職業も・・・)

風船売り モデル ガラス売り
すみれ売り ポスター貼り ジゴレット

藤田がこれらのタイル画に傾倒した直接の発想源はまだ明らかにされていませんが、
擬人化された猫が職業をする12点の連作小品(1932年制作)や、オランダなどで収集したタイルが少なからず影響を受けたと考えられています。

さらに遡ると、幼少の頃から藤田が一日中眺めていたという葛飾北斎や為永春水などが残した風俗画とのつながりも指摘されており、今後さらなる発見や解釈が期待されるところ。

藤田の晩年の喜びでもあった「子どもたち」を主題にした作品は、幼少の頃の記憶と結びついて形となった、
画家・藤田嗣治の晩年の境地なのかもしれませんね。

今回ご紹介した両作品は、当店の5月企画展「レオナール・フジタの子どもたち展」にてご覧いただけます。
また、弊社取扱の他藤田嗣治作品はこちらをご覧ください。

(R・K)