LAP 知られざるアール・デコ時代の装飾技術

こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

美術ファンの皆さまにとってはおそらくフェルメール・ブルーとしておなじみのラピスラズリ。
ラピス “Lapis”(ラテン語の「石」)とラズリ “Lazuli”(ペルシア語の「青」)が合わさった単語ですね。

今回ご紹介する<LAP>は”Lapis” 「石」から名付けられ、1923年にフランスのセアイユ夫妻が発明した特殊技法のこと。
セメント石板の表面へのエナメル彩色を可能とし、かつ、さまざまな鉱物の顔料等を混ぜることにより、粒状や斑状、大理石のような質感を生成できたそうです。

変質しにくく、貴重な「アール・デコ期の魔法」とも称されるLAP。

その誕生秘話として、絵筆を入れていた容器に偶然セメントが落ちたことが伝えられています。
妻のスペランサがアーティストで、夫のジャン=シャルルが研究者であったことから生まれた素晴らしい偶然ですね。

妻のスペランサ・カロ・セアイユは1885年、ギリシャ生まれ。
画家である父から絵の手ほどきを受けますが、たぐいまれな才能はまず音楽の世界で開花しました。
イタリアを経てフランスに渡り、1910年に歌手デビューを果たします。

現代フランス作曲家の楽曲から出身国ギリシャの伝統音楽まで幅広く歌い上げ、フランスとギリシャの文化交流に尽力しました。

1913年に結婚した2歳年上の夫、ジャン=シャルルも芸術的な環境で育ちました。
父はソルボンヌ大学の教授で哲学や美術を専門とし、母は画家、妹も画家となります。

頭脳明晰なジャン=シャルルは政治学・法学を修めたあと、工学者の道へ。
コンクリートの新しい製造法を開発するなどその業績は目覚ましいものでした。

ふたりの結婚がLAPを生み出し、夫妻は1923年に特許を取得、1924年に会社を設立。


翌1925年、アール・デコ国際博覧会がパリで開催されました。
装飾家ジャック=エミール・リュールマン(1879-1933)が複数のパビリオンに使用したことから、LAPは名誉証書と金メダルを受賞します。

以後、LAPを使用した内外装が広まっていきます。

ワインショップ <ニコラ>のファサード(デザイン:ピエール・パトゥー)や
レストラン <ラ・クーポール> の柱装飾、
花屋 <アンドレ・ボーマン> (デザイン:レオン・レイリッツ)etc…

こうした高級建築材としてだけでなく、スペランサは絵画の制作にも取り組みます。
多くの芸術家と協力し、唯一無二のLAP作品を手掛けました。

デュフィは挿画本『モン・ドクトル・ル・ヴァン』の挿絵をLAPに残しています。

フジタが主題に選んだのは鳥獣戯画を彷彿とさせるユーモラスな動物や子供たち。
LAP独特の不思議な質感に魅せられますね。

ninideslaux.over-blog.comより引用
2018年パリ、マイヨール美術館『FOUJITA Peindre dans les années folles』展 LAP4点の展示風景

 

LAPは大変高価だったこともあり、1930年代の世界恐慌と第二次大戦以降の発展が阻まれ、建築や美術界の主役の座を勝ち取ることは出来ませんでした。
しかし、常に新たな技術を取り入れて進化する芸術にとってこの試みが色褪せることはきっとありません。

(K・T)