藤田嗣治『夜と猫』のご紹介
制作年:1950年
技法:コロタイプ
著者:E・コーツウォース
出版社:THE MACMILLAN COMPANY
こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。
さて今回は、パリで活躍した異邦人画家、藤田嗣治の稀少な書冊をご紹介しましょう。
『夜と猫(原題:Night and the Cat)』
本作は藤田がニューヨークで1950年に出版した稀少な挿画本。
アメリカの女流詩人エリザベス・コーツワースが書いた猫を主題とした詩に、藤田が12点の猫の挿絵を添えました。
藤田嗣治といえば、その代名詞ともなっているのが「乳白色の肌」と呼ばれる独特の質感表現。
エコール・ド・パリの寵児と謳われ、華やかな1920年代を過ごした画家です。
しかし、東京美術学校を卒業後、27歳で単身渡仏してからの約10年間は第一次世界大戦の影響もあり、困窮した生活の中で自分のスタイルを模索しながら絵を描き続けました。
また、乳白色の肌とともに藤田独自の表現として知られているのが「面相筆」を使った輪郭線。
面相筆で描く迷いのない正確で繊細な輪郭線は、藤田のずば抜けた画力を存分に活かした技法とも言えましょう。
今回ご紹介する挿画本『夜と猫』も、その藤田の面相筆による線描の素晴らしさが非常によく表れた1冊です。
この挿画本が出版された1950年は藤田にとってどういった時期だったのでしょう。
従軍画家として第二次世界大戦中に戦争画を描いた藤田は終戦後、戦争に協力した戦犯画家として批判を受け、日本画壇に対する失意のままに1949年3月に日本をあとにしました。
本作はパリに戻る藤田が途中、10カ月滞在したニューヨークで生まれたもの。
新天地で創作活動を行なう希望を持っていた藤田ですが、ニューヨークでは現地日系人社会に敬遠され、企画していた展覧会も妨害されるなど深い孤独を味わいます。
本作は、そのような状況の中、人を避けるように制作に没頭したなかで描かれたと言われています。
その後、藤田はパリへ旅立ち、日本同様アメリカの地も二度と踏むことはありませんでした。
『夜と猫』では様々な猫の仕草と表情が愛らしく、藤田の猫に対する深い愛情がよく伝わってきます。
もしかしたら藤田は、夜の暗闇の中をたくましくも自由に、しかしどこか孤独に生きる猫に、自分の置かれた状況と心情を重ね合わせたのかもしれません。
『夜と猫』は本書の他にも、挿絵ページを額装して店内に何点か常設展示しております。
お部屋のインテリアとしても飾りやすい大きさで、非常に人気の高い作品です。
ご質問などございましたらお気軽にお問い合わせください。
また、『夜と猫』に収録された他挿絵はこちらをご覧くださいませ。
(R・K)