ポショワール版画の名刷師ダニエル・ジャコメ

https://pochoirworld.comより

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ブログをお読みいただきありがとうございます。

一度に多数制作が可能ないわゆる「版画」。
複数性という特質から、一点物の肉筆画よりも価値が劣ると考えられがちですが、ピカソやミロ、マティス、デュフィなど20世紀を象徴する錚々たる芸術家が、肉筆画制作のかたわら版画制作に情熱を捧げました。
版画というと、木版画、銅版画、石版画など様々な種類がありますが、本日ご紹介する版画は「ポショワール」版画です。

小さな孔の上から刷毛で彩色する作業工程の一部
https://pochoirworld.comより

ポショワール(Pochoir)はステンシル=型紙の意で、亜鉛や銅などの金属版を切り抜き、その孔に合わせて上から刷毛を使って彩色する技法。

シンプルな作品でも20-30、複雑な色彩の作品では100以上の型紙版が必要なことに加えて、出来上がりのイメージを予想しながら薄く堅い金属版を細かく切り抜く技術、刷毛(ポンポン)を用いて微妙な手加減で彩色する職人技術、正しい順序で色を重ねていく間違いのできない作業工程・・・・など、大変な労力を要します。
中でも、幻の名刷師と謳われたのがダニエル・ジャコメ(Daniel Jacomet,  1894-1966)。
彼が手がけるポショワールは非常に完成度が高く、肉筆の水彩画と間違われることも度々あったとか。
ポショワールでしか表現できない鮮やかな色彩と肉筆に近い版画が人気を呼び、ピカソやマティスなど一流芸術家が手がける作品だけでなく、ファッション雑誌などのいわゆる大衆媒体にも愛されました。

しかしコストがかかりすぎるため、第二次世界大戦後には、進化を続ける写真製版技術に代わられ徐々に減少。
知識を持つ職人も激減し、ダニエル・ジャコメ工房は残念ながら1965年に閉鎖されました。

<ポショワールによる版画作品>

デュフィ「植物誌」 「ガゼット・デュ・ボン・トン」

当店でも、ポショワール版画作品を多数収蔵。
例えば、以前ご紹介したデュフィの『植物誌』やモードファッション雑誌『ガゼット・デュ・ボン・トン』など。
特に『植物誌』はダニエル・ジャコメの監修の元、制作されました。

見た目の美しさもさることながら、複雑な作業工程や熟練職人たちの高度な技術を考えると、より一層芸術としての美しさが増すように感じられます。

(安野モヨコ氏公式ブログより)

機械による安価な現代印刷と違い、手作業の温かみが感じられるポショワールに魅了されて、ポショワールを用いた創作活動を行なう現代の芸術家の方々もいらっしゃるようです。(漫画家の安野モヨコ氏など)

一度衰退してしまった技術や芸術が発見・再評価され、次の世代へ継承されていくことが今後ますます増えると素晴らしいですね!

(R・K)