デュフィ版画集『マドリガル』『コクトーによるデュフィ』『画家への手紙』のご紹介

こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

台風19号が東京にも接近していますね。
荒天を予感させるかのようにどんよりとして肌寒い一日です。
皆様もどうぞお気を付けくださいませ。

本日は、明るく軽やかな色彩で人気のラウル・デュフィの版画集を3本立てでご紹介。
曇天の日や落ち込んだ日にデュフィの「色」に触れると、何だか心が晴れやかになるような気がします。
ご存知の方も多いと思いますが、デュフィの略歴をご参考までに。

ラウル・デュフィ略歴

1877 音楽を愛する家族の元、フランスのノルマンディー地方の港町ル・アーヴルに生まれる
1892 ル・アーヴル市立美術学校に通う
1900 市の奨学金を受け、パリの国立美術学校へ。アカデミックな雰囲気に退屈し、印象派に興味を持つ
1906 マティスの色彩に衝撃を受けフォーヴィズムに傾倒
1908 ブラックと共に、キュビスムの手法を研究
1910 アポリネールの『動物詩集』の木版挿画を制作
1911 結婚。服飾デザイナーポール・ポワレと知り合い、織物のデザインを開始
1912 大手の高級織物会社ビアンキーニ・フェリエ社と契約し、テキスタイル部門のアートディレクターへ
1919 南フランスに長期滞在。地中海の光と色はその後の作品へ大きく影響
1920 マラルメの挿絵やコクトーの舞台装置を制作
1928 ドーヴィルで競馬やレガッタのシリーズに着手
1937 パリ万博の為の壁画「電気の精」制作
1940 第二次世界大戦でドイツ軍がパリを占領したため、郊外の村へ避難
1941 音楽とアトリエ風景をモチーフにした連作を発表
1946 家具のタピストリーなどを制作
1953 死去

まずは、フランス象徴派の詩人ステファヌ・マラルメの詩篇『マドリガル』に、デュフィの色鮮やかな版画で彩った挿画本をご紹介します。


『マドリガル』 Madrigaux

出版年:1960年(オリジナル原本1920年)
作部数:1200部
技法:リトグラフ、ポショワール
出版元:セルクル・デュ・リーヴル・プレシュー

当店の本棚の中で、ひと際目を引く上段左の挿画本が『マドリガル』。
実は、箱と本体のカバーはデュフィがデザインした布で装丁されているので、質感も他の本とは違うのが分かります。


「マドリガル」とは14世紀頃にイタリアで広まった二声以上の世俗音楽。
言葉のアクセントを生かした恋愛や日常生活の出来事を主題にしているのが特徴です。
本作は、デュフィの亡き後に制作された復刻版ですが、オリジナルが出版された1920年前後は、デュフィがモードなファブリックデザインを多く手がけていた時期。
彼のデザインする印象的な布地が大きく注目を集めていました。
復刻版はその彼の功績へのオマージュに布地のカバーを用いたのかもしれません。

中の挿絵もデュフィらしい躍動感ある表現。
「詩」という短い言葉のエッセンスがデュフィの軽やかな絵とよくマッチしていますよね。
詩の部分と一緒に見開きで額装するのもおしゃれですよ!

本作は、各詩の前頁にタイトル頁があるのですが、その文字のフォントにもこだわって制作されています。
華麗なフォントと余白でメリハリをつけた、本全体で非常に芸術性が高く見ていて楽しい作品。
たくさんのフォントがマラルメとデュフィの芸術を豪華に演出しています。

 

限定出版の挿画本に必ず付せられているエディション。
本書は120部限定出版の338冊目。



『コクトーによるデュフィ』 DUFY présenté par Jean Cocteau

制作年:1948年 制作部数:1000部(HC版50部) 
技法:リトグラフ 出版元:フラマリオン社 
制作工房:ドラジェ・フレール

続いては、こちらの作品(ペンと比べると分かりますが、少し大きめです)。
詩人にして小説家、劇作家、画家、評論家などでもあったジャン・コクトーにより選ばれた、10点のデュフィ作品を収録したポートフォリオ集。
マルチな芸術家であったコクトーはデュフィとも親交が深く、1920年に上演された彼の舞台デザインはデュフィが手がけています。
本作品集に寄せた文章の中でコクトーは「デュフィのすべてのデッサンは署名のようなもので、他人が模倣することは出来ない」と賛辞を送りました。

限定1000部のうちの855番目のエディション。



『画家への手紙』 Lettre à mon peintre

制作年:1965年
制作部数:スイット付1000部 普通版5000部
技法:リトグラフ
著者:マルセル・ウーリー
出版元:LIBRAIRIE ACADEMIQUE PERRIN
制作工房:ムルロ工房

デュフィはその76年の生涯で、画家だけでなく服飾デザイナーや詩人、作家など多岐にわたる分野の芸術家と関わりを持ちました。
生来陽気で社交的な性格だったというデュフィ。
多くの友人がその死を悼んだことでしょう。
最後にご紹介するのは、デュフィの没後10年の節目に際し、芸術家の友人たちが送った追悼画文集『画家への手紙』です。
各芸術家がデュフィへの手紙と、彼へ捧げる絵を送っています。(一部芸術家は手紙のみ)

アンドレ・マルシャンより

また、この画文集にはデュフィが生前に描いた作品も18点収録されています。

ドレスにもなったテキスタイルデザイン デュフィが生前書いた手紙付きの作品。
相手は印象派の巨匠ルノワールの息子で、著名な映画監督ジャン・ルノワール。
父ルノワールの有名な作品「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」へオマージュを捧げた作品
「電気の精」制作用に描いたニュートンの素描でしょうか

厚みのある本にぎっしりと込められたデュフィへの想い。
多くの人々に愛された画家ラウル・デュフィは、彼の亡き後10年を経ても惜しまれ続けました。
画文集として形に残ったこの作品を通して、後世の私たちもデュフィと友人たちの心の交流を知ることができるのです。
作品だけではないデュフィの魅力により一層惹かれてしまう、そんな温かい画文集です。

その他のデュフィ作品はこちら


(R・K)