【吉祥寺店】12月「レオナール・フジタ展」開催中!

秋田県立美術館

こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。 

先日、知人を訪ねて秋田まで行ってまいりました。
訪問中、秋田県立美術館では千葉や福島を巡回していた「レオナール・フジタとモデルたち」展が運よく開催されており、美術館の名物ともなっている藤田嗣治の壁画「秋田の行事」 とともにスペシャルな展示が鑑賞できました。

この秋田県立美術館(旧平野政吉美術館)は、米穀商を営む秋田の資産家・平野政吉(1895-1989)が個人で蒐集した、国内外の美術品コレクションを公開する目的で1967年に設立。
特に1930年代に描かれた藤田嗣治の一級品を所蔵していることで知られます。

「眠れる女」 「自画像」

「秋田の行事」

藤田が、壁画「秋田の行事」を制作した期間はたったの174時間。
15日間という速さで描いた藤田の尋常ならざる気迫を感じるとともに、少しずつ不穏な戦争の足音が近づきつつあった1930年代という当時、ここに確かに息づいていた藤田の思いを感じるような感慨深い旅でした。
>平野政吉×藤田嗣治 二つの個性が生み出した秋田の至宝「秋田の行事」

さて、ギャルリー・アルマナック吉祥寺でも、本年最後の企画展として1年ぶりに藤田嗣治を大特集。
「平野政吉コレクション」に勝るとも劣らない?!最新入荷の油彩作品から、貴重な肉筆素描作品やオリジナル版画作品まで約50点をご用意いたします。
出品作品の一部をご紹介します。


「坂道のある風景」(1957年 油彩)
東京美術倶楽部鑑定書付

凧揚げをして遊ぶ子供たちのいる素朴なパリ郊外の一場面を描いた本作。
描かれた1957年は、戦後フランスに戻り6年ほどが経っていたころ。
ようやく心の安寧を取り戻したころでしょうか。
藤田がふと見つけた、優しい幸福。
美しい静けさが漂う逸品です。


「婦人の顔」(1930年頃 水彩+面相筆による描画)
東京美術倶楽部鑑定書付 

繊細な面相筆による輪郭線で描かれた美しい女性の横顔。
張り詰めた緊張感と集中力の中で引かれた流れるような線描で、柔らかな女性美を描いた藤田芸術の真骨頂ともいえる作品です。
1930年に日本で出版された「藤田嗣治画集」の表紙絵(右)と図柄がよく似ており、この時期付近に制作された一枚かもしれません。
(藤田の面相筆についてはこちら


「雪ん子」(1929年 エッチング Ed.EA.J/J)

「パントル・グラヴュール」(画家にして版画家、の意)。
藤田がそう認められるようになったのは、1920年代のこと。
この時期藤田は熱心に版画制作を研究し、多くの展覧会に版画を出品しました。
なかでも傑作として知られる版画集が1929‐30年に発表した『子供十態』、『猫十態』、『女六態』の3部作です。

この版画集は、藤田が油彩作品で表現した「乳白色の下地」を可能な限り忠実に”版画”で再現することを目指し、ルイ・マカールという銅版画職人の協力のもと、藤田が全面的に監修しアポロ社から各100部限定で出版されました。
『子供十態』には様々な人種の10点の子どもたち、『猫十態』には10点の愛嬌ある猫たち、『女六態』には当時の妻ユキと友人女性がポーズをとる6点の版画が収録されています。

本作「雪ん子」はこの3部作のうち、『子供十態』に収録の作品。
藤田の版画芸術の中で最高峰の作品群の中でも最も完成度が高く、また最も人気の図柄として知られる入手の困難な一点です。

<参考作品>
『子供十態』に収録された他作品の一部


(左)「子供の芸術家」(1961年 リトグラフに手彩色 サイン入 H.C.)
(右)「朝」(1956年 リトグラフ サイン入 Ed.30/220)

『子供十態』の制作から約30年。
第二次世界大戦後ようやくパリに戻った晩年の藤田は、実の子どもに恵まれなかった代わりに、自分の絵に描かれた子どもたちを自分の子だと考えるようになりました。
キュッと閉じた唇、すました表情、あどけなさの残る仕草・・・
どの子も愛嬌たっぷりの藤田らしい子どもたちですね。
藤田が実子と思い愛情を注いだ、子どもをテーマにした作品たち。
右下に添えられた藤田の直筆サインがその愛情の深さを物語っているようです。


 

(左)「横向きのヌード」(1930年 エッチング サイン入 E.A.)
(右)「眠り・後扉絵」(1941年 リトグラフ Ed.1100)

女性像や裸婦像を語らずして藤田芸術は成立しえないとも言えましょう。
それほどに藤田の描く女性たちは美しく繊細な線描で構成され、そしてみな凛とした独特の個性を持っていました。
「横向きのヌード」は先ほどご紹介した傑作銅版画集3部作『女六態』の一点。
藤田はこの頃、ミケランジェロの影響を受けた壁画を数点手がけており、男性的な筋肉の動きを女性像に取り入れる研究成果が見て取れる作品です。

「横向きのヌード」とは対照的に柔らかな肌の表現の「眠り」(右)は、友人の劇作家で外交官も務めたジャン・ジロドゥがしたためた小説『面影との闘い』の中に収録されたリトグラフ版画。
物語は、藤田が描き同氏に贈ったこの女性像から着想を得て制作されました。
(『面影との闘い』についてはこちら) 

<参考作品>
『女六態』に収録された他作品の一部


(左)「アオラ」  (右)「アビハイル」
挿画本『猫の本』より(1930年 コロタイプ Ed.500)

前述した3作の版画集『猫十態』『子供十態』『女六態』を立て続けに出版し、その並外れた「版画家」としての才能を認められた藤田。
早速、今度はNYの出版社が藤田の猫をテーマにした書物を企画しました。

限定500部で1930年に出版された本書『猫の本』には、コロタイプ版画で刷られた藤田の愛くるしい20匹の猫のドローイングが収録され、その横には詩人マイケル・ジョゼフが詠んだ散文詩が添えられました。
特徴的なのは、ジョゼフがそれぞれの猫につけたユニークな名前。
20匹の猫には古代ローマの皇妃や旧約聖書の登場人物、メソポタミア文明の伝説的な女王の名などが冠せられ、まるで猫の姿に変えた彼らの姿なのではないかと思えるほど。
見事な存在感と個性で強烈なインパクトを放った作品だったのでしょう。
以降、「猫」の画家としての藤田の地位とイメージが確立したと言われています。


今月はこの藤田嗣治特集の他、冬季休廊を迎えた軽井沢店から戻ってきたとびきりの絵画やアンティーク工芸品も吉祥寺店にご用意しております。
会期中の皆様のお越しを心よりお待ちしております。

当店所蔵の藤田嗣治全作品はこちら

(R・K)