藤田嗣治挿画本「面影との闘い」のご紹介

出版元:エミール・ポール・フレール
制作年:1941年
制作部数:1100部
技法:リトグラフ

こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

いつの時代も、ミステリアスな雰囲気を持つ人は不思議と相手を惹きつける力がありますよね。
特に、自分のことを多くは語らず、謎めいた部分のある女性に、男性が「もっと知りたい」と興味が湧くのは世の常なのかもしれません。

本日は、時にその女性が、夢かまことか。幻影か現実か。
その境界さえ曖昧になってしまうほど神秘的で蠱惑的な、謎めく女性の面影を追い求める男性の心理を綴った作品をご紹介いたします。

主人公はフランスの劇作家ジャン・ジロドゥ(1882-1944)。彼には胸の内に秘める理想の女性像がありました。
時は、パリを中心に新しい文化や芸術が次々に開花した20世紀初頭。
当時のパリ画壇では、藤田嗣治という日本人画家の描く、それまで誰も見たことのない乳白色の肌を持つ女性が世間を賑わしていました。

ある時、ジロドゥは藤田が描いた一枚の絵を入手します。
それは、藤田がジロドゥのために特別に描いたという浅い眠りにつく女性の姿でした。
自らの理想の女性像を具現化したような、ヴェールに包まれた女の美しい姿に心を奪われたジロドゥは、湧きあがる彼女への想いを語り始めます。

そうして完成した作品が本作「面影との闘い」。
ジロドゥが恋い焦がれたこの女性の全体像は謎めいたまま、まるで私たちの好奇心をも募らせるように本の中で目や口、頬、指先とそれぞれ切り離され、文中に散りばめられました。

眠りから覚めた女性は一体どのような瞳や声を持っているのでしょうか。



このように文字の上に版画が刷られる挿画本は非常に珍しく、ジロドゥが綴った溢れる想いに、女性の面影の視覚的イメージが効果的に配され甘美な芸術作品にまとめ上げられました。

作家の「言葉」と画家の「絵」の相乗作用によって生まれた知られざる傑作。本書は現在当店で開催中の「藤田嗣治展」でご覧いただけます。

会期中の皆様のお越しを心よりお待ちしております。
また、ご質問などございましたらお気軽にお電話(0422-27-1915)またはこちらまでお問い合わせくださいませ。

(R・K)