ミュシャが表紙を手がけた美術文芸雑誌『ル・モア』のご紹介

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明治維新後、19世紀末から20世紀初頭にかけて西洋の文明が次々と流入し、大きな変革のあった日本美術界。
田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎という3人の若き美術学生もまた、日本に紹介されたばかりのムンクやカンディンスキーらから特に刺激を受けて独特の画境を築き上げていきました。
彼らが1914年に出版した版画集『月映』(つくはえ)をテーマにした企画展が、現在、東京ステーションギャラリーで開催されています。
東京ステーションギャラリー『月映』展

さて、今回はそうした日本の美術雑誌にも影響を与えたかもしれない、知られざるフランスの美術文芸誌をご紹介しましょう。
その雑誌の装丁デザインにはあのアルフォンス・ミュシャが大きく関わっています。
ミュシャ作品の知名度としては一般的にそれほど高くないものの、美しく神秘的な女性像とそれを引き立てるアール・ヌーヴォーの装飾は、ミュシャ芸術の真骨頂とも呼べる傑作です。

Maison de la Bonne Presse社より1899年から1917年まで発行された、月刊美術文芸雑誌。

新聞や雑誌、機関誌などの定期刊行物は当時数多く出版されていましたが、『ル・モア』はカトリックの教義や説教を中心に扱った宗教色の強さが特色。
キリスト磔刑の姿に”ADVENIAT REGNUM TUUM!”と記された帯を合わせた出版社のロゴマークからも、その方向性が分かりますね。

“ADVENIAT REGNUM TUUM”とはキリスト教徒が神へ捧げる祈祷「主の祈り」の一文で、和訳すると”あなたの御国が来ますように”の意。
『ル・モア』の各号の表紙にはこの出版社のロゴが必ず刷られました。

 

Maison de la Bonne Presse社のロゴ

創刊年である1899年の一年間の表紙デザインを請け負ったミュシャはまず、中央に円形の枠を配置し、そこに各月を擬人化した女性を描写しました。
そして、それを囲む周囲の装飾模様やフォントは毎月同じものを使用。
それにより、この美術文芸誌に統一感が与えられ、またその独創的かつ個性的なデザインにより他紙との差別化に成功。
その後、表紙を担当する芸術家が変わってもこの表紙デザインは変わらず引き継がれたのです。
また、ミュシャが『ル・モア』で生み出した12ヶ月の女性は後に当時のポストカードのデザインにも採用され、大変な人気を博しました。

1903年4月号表紙

当店では、再びミュシャが表紙を手がけた1903年版『ル・モア』誌をお取り扱い。
この年は1899年の表紙絵をベースに、若干の変更が加えられました。

柔らかな丸みの枠に描かれた女性はどの月も個性と魅力に溢れ、縦長の大きなポスターや装飾パネルに描かれたミュシャの女性像とはまた違うオーラを放っています。

ご自身の、または大切な方のお誕生月などにちなんでお求めになる方もちらほら。
色数の多いポスターなどのミュシャ作品と比べて、装飾文様や一色で収められた女性像の「線」の美しさが際立つ逸品です。

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(R・K)