西洋絵画の普遍的主題「アモルとプシュケ」

フランソワ・ジェラール「プシュケとアモル」(1798年)

 

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ブログをお読みいただきありがとうございます。

「ヴィーナスの誕生」、「受胎告知」、「ピエタ」・・・
これらは古来より、西洋芸術の世界で愛されてきた聖書/神話に基づく主題たち。
庶民の識字率がほとんど発達していなかった時代においては、目で見て理解できる絵画や彫刻の果たす役割はとても大きかったことでしょう。
本日は、あまたあるこうした伝統的な西洋芸術の題材から、美しい美女「プシュケ」と愛のキューピッド「アモル」の物語をご紹介します。

「アモルとプシュケ」

古代ローマ人アプレイウスが2世紀頃書いた小説「黄金のロバ(原題:変身物語)」に収録された挿話であるこの物語は、特に古代ギリシャ・ローマ時代の文学が再評価されたルネサンス期以降、芸術の分野で盛んに取り上げられました。

芸術家の想像力を掻き立てるその物語のあらすじは・・・


昔々あるところに、美しい3人の娘を持つ王様と妃がいました。
3人の王女の中でも、末娘プシュケの美貌は格別。
その美しさは、愛を司る女神ヴィーナスをも嫉妬させるほどでした。
嫉妬に燃えたヴィーナスは息子のアモルに命じて、彼女をこの世で一番醜い生き物と結婚させるよう計らいます。

しかし、最初に見たものに恋をしてしまう呪いの矢を誤って自分に刺してしまったアモル。
矢の狙いを定めていたプシュケを見て、彼女に恋をしてしまいました。

プシュケに恋をするアモル

さて、2人の姉にならわず結婚の遅いプシュケの行く末を案じた王は、神託をうかがいにプシュケをアポロンの神殿へと連れていきます。
しかし、神託でお告げされた結婚相手は恐ろしい怪物。
父王は動揺しますが、神託で指示されたとおりにプシュケを岩の上に置き去りにし、帰ってしまいました。

するとその時、強い西風が巻き起こりプシュケは吹き飛ばされます。
風神ゼフュロスに乗って、遠くへ遠くへと・・・

プシュケを運ぶ風神ゼフュロス

気を失ったプシュケが目覚めると、そこは美しい宝石や装飾品に囲まれた煌びやかな宮殿。
そこでは、絶対にその顔を見てはいけないと忠告する”夫”と名乗るものが、夜になると寝室に訪れ、彼女と時を過ごしていきました。
しかし、毎朝明るくなる頃には夫は姿を消しているという謎の結婚生活・・・

そんな折、妹から音沙汰のないことを心配した姉たちが、ゼフュロスに連れられプシュケのいる宮殿へとやってきました。
妹の不思議な話を聞いた彼女たちは、夫が化け物かどうか確かめるよう促します。
その晩。姉たちの助言通りにナイフを片手にランプをそっと夫の顔にかざすと・・・
その姿はプシュケがかつて見たこともないほどの美しい青年でした。
この青年こそ、プシュケに恋をしたアモルだったのです。

あまりの美しさに思わず息をのんだプシュケはランプの蝋をアモルの肌にぽとり。
飛び起きたアモルは、顔を見てはいけない約束を破ったプシュケに落胆。
彼女のもとから飛び去り、豪華なお屋敷も夢のように立ち消えてしまいます。

アモルの姿を見てしまったプシュケ

 


何もかも失い、川辺で泣いていたプシュケが出会ったのは半獣神パン。
パンは彼女を慰め、恋人探しの旅を手助けすることにしました。

彼女はまず2人の姉のもとを訪れ、事情を話すことに。
話を聞いた姉たちは、次は我こそが豪華な館に住む番だと思い込み、プシュケと同じように岩の上に身を置くと・・・
強い西風が吹きつけ、彼女たちは崖から真っ逆さまに落ちてしまいました。

次にプシュケが向かったのは、豊穣の女神セレスや結婚の女神ジュノーの神殿。
しかし、女神たちに助けを求めても受け入れてもらえません。
そこでようやく、真に仕えるべき神はセレスやジュノーではなく、自らの行いに立腹しているアモルの母、女神ヴィーナスであると悟るのです。

プシュケを慰めるパン神

セレスとジュノーの神殿を訪れるプシュケ


許しを請うためヴィーナスのもとへ赴いたプシュケに対し、ヴィーナスは4つの試練を課します。

それは、
①穀物倉庫でバラバラに散らばった小麦、大麦、キビ、エンドウ、大豆、レンズ豆などの実を日没までに一粒ずつ袋に選り分けること
②川の向こうに生息する凶暴な羊たちの背中に生える黄金の羊毛を刈ってくること
③三途の川を流れる黒い水を瓶に満たして持ってくること
④冥府の女王プロセルピナから「美しさ」の入った箱をもらってくること

半獣神パンの守護があったのでしょうか。
プシュケはそれぞれの試練で助けをもらいながら、無事に美の箱を手にします。
この美の箱は、絶対に中を開けてはいけないと忠告されていました。
しかし、絶対にしてはいけないと言われると、どうしても破りたくなるもの。
プシュケはそう忠告されたはずの美の箱を我慢できずに開けてしまうのです。

たちまち、プシュケは深い深い眠りにつきます。

プシュケを導く三途の川の渡し守カロン

箱を開けるプシュケ


それから、しばらくの時が経ったころ。
母ヴィーナスのもとを離れてプシュケを探していたアモルは、ようやく昏睡したように眠りこむプシュケを発見。
彼女の身体を持ち上げると、天界へと連れていきました。

そこで天界の最高神ジュピターのもとを訪れたアモルは、プシュケの過ちに対する許しを請い、またプシュケと永遠に結ばれるよう懇願。
2人の絆の強さを理解したジュピターは願いを聞き入れ、2人に祝福を与えます。
その後、祝宴の席で不死の神酒アンブロジアを口にし、プシュケは神格化。
めでたく結ばれた2人にはpleasure(喜び、悦楽)という名の子どもが生まれ、そののち永遠に幸せに暮らしたと言われています。

天界へ上るプシュケとアモル

神々による結婚式の祝宴


シャトラン「アモルとプシュケ」

“人間の魂”と”神の愛”との結合、そして愛の普遍性を説く「アモルとプシュケ」。
ネオプラトニックな要素や、様々な解釈が人を惹きつけ続けるその主題は様々な芸術家が作品に残しました。

弊社でも、ジェラールやシャトランが描いた作品をお取り扱いしております。
2人が誓った永久の愛。
その幸せに包まれるような素敵な一点です。

(R・K)