藤田嗣治が愛した面相筆

 

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ブログをお読みいただきありがとうございます。

いよいよ、当店で開催中の「藤田嗣治 遺作展」も残すところ数日となりました。
映画「FOUJITA」も続々と公開延長が決定したそうで、来年以降も引き続き藤田の人気が続きそうですね。

さて、映画冒頭のシーンで印象的だったのが極細の輪郭線をなぞる藤田の手元に迫ったシーン。
静寂の中、精神を研ぎ澄まして引かれる一本の細い線は和筆を武器にパリで戦った藤田の人生そのものを表しているような気がしました。

異国の地で己を表現するため、藤田がこだわりぬいた「筆」はどのようなものだったのでしょう。


東京・九段下の老舗書道用具店「平安堂」。
明治26年(1893)の創業以来、河東碧梧桐や高浜虚子、中村不折など書家や俳人に愛されてきました。
関東大震災や戦災をこうむりながらも、今なお日本の伝統である書道文化の継承・発展に務める名店です。

平安堂の暖簾には「筆匠」と書かれており、筆造りに対する情熱が伝わってきますね。
ちなみに力強い筆跡が目を引く暖簾は河東碧梧桐が手がけました。

藤田が愛用していたのが、この名店の面相筆。
面相筆とは顔周りの繊細な表現や輪郭線の描写に最適な、日本画筆の中で最も穂先の細い筆。
何種類もある平安堂(右参照)の面相筆の中から藤田が使用していたのはイタチを主原毛にした「稀印(まれじるし)」。

イタチは毛に弾力性があり毛先がまとまりやすいため、すっきりとした線を描くことができるそうです。
藤田は随筆集「地を泳ぐ」の中でこう語っています。

”僕は日本の毛筆に不思議な魅力を感じ、ペンや鉛筆よりも墨や毛筆を謳歌するようになったのは、習性というか、遺伝というか、要するに(中抜粋)僕は日本人だから西洋へ行っても日本の筆と日本の墨を油絵に使ったのである”

日本人・藤田嗣治が魂を込めて握り続けた和筆という日本の美。
生活の利便化が進み、ボールペンやシャープペンシルを手に取ることの多い昨今ですが、たまには背筋を伸ばして一文字一文字大切に毛筆でしたためるお手紙も素敵ですね。

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(R・K)