京都・二条城の片隅で感じた東洋美術と西洋美術の融合

ドーム兄弟「オランダ風景文花器」
制作年:1890年代
技法:被せガラス、ジヴレ、グリザイユ
サイズ:H7.3×W9.7×D5.4㎝
底部にエナメル彩サイン

こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

先日、数年ぶりに京都と奈良を訪れる機会に恵まれました。
普段はギャラリーで西洋美術を見慣れている分、二つの古都を舞台に生まれた神社仏閣や芸術作品を新鮮に感じるとともに、改めて日本民族に対する強い誇りを感じる旅行でした。

春日大社 東大寺

旅行中訪れた名所の一つが、京都・二条城内にある二の丸御殿。
約1000坪に及ぶ広大な御殿の中には、安泰の世を築いた徳川家の威厳を誇示するために、名門狩野派の一族が手がけた絢爛豪華な障壁画がずらり。

御殿内に現在展示されている壁画は、職人たちによる複製模写画であり、約400年前に描かれた原画は適正な環境下に保たれた収蔵庫で管理されていますが、当時の様子や威光は十二分に伝わってきます。

二の丸御殿の「黒書院」(京阪電車HPより)

しかし、今回最も印象的だった二の丸御殿の一角は、将軍が大名や重臣と対面する壮麗な金碧障壁画で囲まれたこの(↑)ようなお座敷ではなく、「白書院」と呼ばれる将軍の居間・寝所。 

「白書院」
白書院の襖に描かれた山水画

ここは、壁や襖に描かれた静かな水墨画に囲まれた、やや質素な造りのこじんまりとした広さの空間。
壁画には中国へ渡航した禅僧が必ず訪れたという「西湖」などが描かれていると言われ、室町時代より人気のあった画題が、将軍の目を楽しませていたようです。

天下をすべからく治める、偉大な時の将軍であろうとも、プライベートには癒しの空間が必要であったのかもしれませんね。
 

さて、まばゆい金色の障壁画を鑑賞したのちに、この場所で抒情的な水墨画を目にした時に何故かふと心に浮かんだ作品がありました。
西洋ガラス工芸の巨匠、ドーム兄弟による高さ7cmほどの小さな作品「オランダ風景文花器」

ドーム兄弟やエミール・ガレをはじめとする西洋ガラス工芸家たちの作品といえば、様々な色ガラスを重ねて作る美しい色どりのハーモニーが魅力の一つですが、本作では色ガラスはほとんど用いられておらず、まさに「ガラスに描かれた水墨画」のようです。

光を当てると幻想的な雰囲気に

 

酸の腐蝕作用によって、ガラス地に霧氷のような粗い質感を出す「ジヴレ」という技法を施したのちに、灰色の濃淡のみのエナメル彩で繊細に絵付けすることで、水墨画のような表現が可能になったのでしょう。 

裏面

 

ジヴレによって生み出されたざらざらとした表面はどこか和紙の質感をも彷彿させ、19世紀末当時流行していた東洋趣味の影響を垣間見られる奥深い作品ですね。

華やかな色彩がない分、落ち着きと安らぎを与える本作。
風車の見えるオランダの風景とは名ばかりの、まるでどことも知れぬ桃源郷を描いているような・・・

一見、かけ離れたようにも思える、二条城の水墨画とヨーロッパのガラス工芸。
東洋と西洋の芸術作品の間に不思議な親和性を感じたひとときでした。

(R・K)