オーギュスト・ルドリュ「地中海のヴィーナス」のご紹介
オーギュスト・ルドリュ「地中海のヴィーナス」
技法:ブロンズ
制作年:1907年
高さ:17cm
こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。
「ジャコメッティ展」に「フリオ・ゴンザレス展」、「カミーユ・クローデル展」 、「イサム・ノグチ展」・・・
これらは日本国内の美術館で近年開催された、あるいは現在開催中の「彫刻家」に特化した展覧会です。
彫刻芸術への関心がますます高まっていることが伺えますね。
けれども、美術館での鑑賞とは異なり、ご自宅を装飾する調度品と考えると・・・
硬質な金属製の素材が重厚的で格調高い印象を与えるためか、彫刻品のご購入には二の足を踏まれる方々が多いように感じます。
しかし、本日ご紹介するブロンズの彫刻作品「地中海のヴィーナス」は、存在感がありながらもその小ぶりなサイズが魅力。
貝にちょこんと座って微笑むヴィーナスはまるで妖精のよう。
思わず傍に置いておきたくなってしまう愛らしい逸品です。
作者の名前はオーギュスト・ルドリュ(1860-1902)。
パリの名門美術学校エコール・デ・ボザールで学び、ロダンの友人でもあったフランス人彫刻家です。
1883年の官展でデビュー。
1900年のパリ万博では銅賞に輝きました。
彫刻に用いる素材を熱心に研究したことでも知られ、ブロンズ以外にも漆喰やスズを主成分とした低融点合金”ピューター”で制作。
そのため、彼の作品は素材の質量や質感により、様々に異なる表情や輝きを見せるのです。
ヴィーナスやニンフなど古代ギリシャ・ローマ神話に登場する古典的なモチーフに、貝や海洋動物などを組み合わせた優美でエレガントな作風を得意としました。
さて、
画家が版画制作にあたり、腕のいい版画工房の職人に依頼するように、ブロンズ彫刻家にとって重要なのが鋳型を扱う”鋳造所”との信頼関係です。
ルドリュは、1758年に起源をもつフランス最古の鋳造所の一つ”シュス鋳造所”で作品を制作。
ここは、ナポレオンの妻マリー・ルイーズをはじめ、王室や貴族から数多くの注文を受けるなど、熟練した職人たちが集う由緒ある鋳造所でした。
気品に溢れた雅やかな作風が人々の心を惹きつけてやまないのでしょう。
こうして生み出されたルドリュの作品たちは、パリのオルセー美術館をはじめ、世界の名だたる美術館に今なお収蔵されています。
ちなみに、ルドリュ家の婚姻関係はとても華やか。
芸術家の家族として何かしらの交流があったのでしょうか。
ルドリュの娘アリスは、あの天才ガラス工芸家ルネ・ラリックと結婚し、一男一女をもうけました。
その後、彼らの息子マルクは父親の事業を引き継ぎ、ガラス工芸家の道へ。
そして娘のスザンヌは、リモージュ地方の陶磁器窯として名高いアビランド家に嫁いだのです。
そう考えると、19世紀末のアール・ヌーヴォー期。
当時、宝飾デザイナーからガラス工芸家へ転身する過渡期であったルネ・ラリックは、義理の父親になるオーギュスト・ルドリュの作品も恐らく見ていたことでしょう。
彫刻の道を極めたルドリュ家、
ガラス工芸とジュエリーの道を極めたラリック家、
そして陶磁器の道を極めたアビランド家。
世代や分野を超えて、オーギュスト・ルドリュが彫刻に込めた芸術家の精神は、脈々と引き継がれています。
(R・K)