19世紀のジャポニスムブームと銅版画家フェリックス・ブラックモン

こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

現在、汐留にあるパナソニックミュージアムでは「アール・ヌーヴォーのガラス展」が開催されています。
皆様もう行かれましたか?

今回の企画展には、ヨーロッパ随一のガラスコレクションの宝庫として知られるドイツ・デュッセルフドルフ美術館の選りすぐりの収蔵品の中から、初期アール・ヌーヴォー時代~ガラス工芸の黄金期を築いたガレの作品まで約140点が来日。

これらのガラス工芸品の多くが、当時多大な影響を受けたもの。
それが、19世紀末にヨーロッパを席巻した日本趣味の美術様式「ジャポニスム」です。

東洋のエキゾチックな文様や形態を表面的・視覚的に表現した単純なジャポニスムから始まり、やがてガラス作品は、ガレらにみる”もののあはれ”や”自然との共生”など日本の美的理念を精神性深く体現したジャポニスムに発展します。

ジャポニスム芸術におけるこうした変化は絵画や陶磁器など他の分野でもみられ、例えばジャポニスムに深く陶酔した画家ホイッスラーの初期作品は、扇や青磁などそのまま背景に描いたかなり直接的なもの。(左)
しかし彼の作品は東洋の文化に傾倒するにつれ、禅や水墨画の世界を彷彿させるような幽玄的な美に包まれていきました。(右)(詳しくはこちら



19世紀末、多くの芸術家が陶然となった「ジャポニスム」。
流行の立役者の一人が、銅版画家のフェリックス・ブラックモンです。
ブラックモンは、ある日当時著名な銅版画の摺師オーギュスト・ドラートルの工房でドラートルが購入した有田焼を目にしました。
しかし彼が魅了されたのは焼き物自体ではなく、それを包んでいた緩衝材の紙。
この紙こそが庶民の日常を描いた葛飾北斎のスケッチ画集「北斎漫画」でした。
西洋絵画では見たことのないような、構図の妙や題材の数々・・・
ブラックモンは北斎漫画や浮世絵の収集と研究を重ね、その後北斎や広重のモティーフを版刻した食器セットで1867年のパリ万博で金賞を受賞しました。


彼はまた、当時衰退の傾向にあった銅版画が再注目される、”エッチング・リヴァイヴァル”運動の気運を高めた重要人物の一人。

エッチングに興味を持つ画家たちや摺師と協力し、紙やインクの種類、銅板の腐食具合やインクの拭き残しなど微妙な条件により、一枚一枚異なる刷りが出来上がるエッチングの印象的な表現や叙情的な効果を探求しました。
東洋や日本の文化に酔いしれたジャポニスムブームというと、ゴッホやモネ、ロートレックなど画家への影響が注目されがちですが、ガラス工芸や銅版画にみるジャポニスムの発展から、西洋美術史を読み解くのも面白いかもしれませんね。

エッチング・リヴァイヴァルや銅版画の名摺師ドラートルについては、また改めてこのブログでご紹介しますね!
>19世紀エッチング芸術再興の原動力となった「腐食銅版画家協会」

(R・K)