200部限定出版!幻のエドワード・バーン=ジョーンズ作品版画集のご紹介


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昨年末より東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムにて開催されている「英国の夢 ラファエル前派展」。
イギリスのリヴァプール国立美術館が所蔵する作品の中から、ラファエル前派を中心とした見応えある約65点を展示しています。

19世紀前半、産業革命によって台頭した新興中産階級のニーズを受けて革命的な進化を遂げていったイギリス絵画の価値観や、激動の近代英国美術史を俯瞰できるまたとない美術展です。

さて、「ラファエル前派」と一括りにされていますが、実際には唯美主義や象徴主義などの芸術運動が19世紀末にかけ複雑に絡み合ったこの時代。
一体、どのような動きだったのでしょう。

まず1848年に最初の反発運動を起こしたのが、保守的美術教育に反旗を翻した若手画家たち。
ジョン・エヴァレット=ミレイ、ダンテ・ガブリエル・ロセッティ、そしてウィリアム・ホルマン・ハント。
いわゆる「ラファエル前派(Pre-Raphael Brotherhood)」の初代メンバーです。

ミレイ ロセッティ ハント
ロセッティ「シビラ・パルミフェラ」

彼らは美術学校が当時美の基準としていたルネサンスのラファエロよりも「前」の時代に立ち返ることをモットーに、
・神話や伝説、中世の文学作品などを主題
・自分たちが描きたいと思う美女の基準でスカウトした女性をモデル
・徹底した自然描写や細密描写
を特徴とする前衛的美術運動を展開。
一大センセーショナルを巻き起こしました。

彼らの活動は事実上5年間で終焉するもその精神を受け継いだバーン=ジョーンズが中心となり、のちに第二世代の芸術家が誕生していきます。
その後、新たに誕生した美術様式が「唯美主義(Aestheticism)」。
ラファエル前派の甘美的な雰囲気はそのままに、作品から高尚な主題や教訓的な要素を一切排除し”唯(ただ)、美しい”と感じる作品がトレンドになりました。

この「唯美主義」は絵画以外にも裾野を広げました。
そのきっかけが1851年に開催されたロンドン万博。
博覧会に出品されていた諸外国の家具や工芸品の洗練された美しさに驚愕したイギリスデザイナーたちは人々の生活を刷新しようと努めました。
こうして、人々は絵画以外にも日常の暮らしに美を求めるようになります。
後年ウィリアム・モリスが率いたアーツ・アンド・クラフツ運動はまさにそうしたムーブメントの賜物と言えましょう。

 

アルバート・ムーア「夏の夜」 ウイリアム・モリスの別荘の一室
バーン=ジョーンズ「レバノンの花嫁」

また同じく1800年代後半にかけて緩やかに形成されたのがラファエル前派第二世代。
短命に終わった初期ラファエル前派の精神を受け継いだ流派で、特にロセッティに強く影響を受けたエドワード・バーン=ジョーンズ(1833-1898)が最も有名です。 
バーン=ジョーンズはアーサー王伝説や過去の歴史・神話を主題に、世紀末の幻想的・妖気的な風潮を独特の世界観で表現しました。
「英国の夢 ラファエル前派展」では、縦3mを超える水彩画の大作「レバノンの花嫁」が出品されています。

出版年:1900年頃
技法:フォトグラヴュール
出版社:BERLIN PHOTOGRAPHIC COMPANY
出版部数:200部限定
サイズ:50×67cm

当店は、このラファエル前派第二世代を代表する、バーン=ジョーンズの版画集を収蔵。
画家亡き後の1900年頃、作品管理を務めた息子フィリップの監修の下制作された銅版画集で、静謐なバーン=ジョーンズの世界を巧みに表現した逸品です。


こちらは収録作品の一枚「『怠惰』の戸口の前の巡礼」。
中世の詩人チョーサーの「薔薇物語」の一幕で、若い男に擬人化した巡礼途中の詩人が、美しい女性に擬人化した怠惰に招き入れられている様子。
男の背後の木には黒いカラスがとまっていて何か不吉なことの予兆にも見えますね。

版画集には、こうした中世の文学に依拠する作品を始めとする全91点の作品を収録。
フォトグラヴュール(写真製版を併用した銅版画)技法を用いて表現した繊細な色合いや味わいは、美しい黒の階調と相まって原画の油彩・水彩作品では味わえないほど魅力的です。

作品は現在、吉祥寺ギャルリー・アルマナックにてご覧いただけます。
ご質問などございましたらお気軽にお問い合わせくださいませ。

(R・K)