永久の謎を投げかける中世のタペストリー「貴婦人と一角獣」


こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

弊社が美術協力させていただいた映画「FOUJITA」のテレビ放送が、昨年12月ようやくWOWOWにて始まりましたね。
今年にはDVD化するのではないかという噂で、今から発売が楽しみです。

映画の一シーン

 

さて。芸術的な映像美に溢れた映画の中でひときわ印象的だったのが、寝間着姿の藤田が深紅の壁掛けに囲まれながらしばし佇むシーン。

一切の台詞や動作のない静寂の中に、監督の思いが詰まっているような美しい場面でした。
まるで我を忘れたように藤田が見つめるこの作品は、通称「貴婦人と一角獣」と呼ばれる6枚組の連作タペストリー(室内装飾用の織物)。
現在は所蔵先であるフランスパリ市内の国立クリュニー中世美術館にて一般公開されています。

15世紀末頃にフランドル地方で織られたと言われていますが、詳しい制作年や工房などは不明。
しかし、現存するタペストリーの中でも特に別格とされる「貴婦人と一角獣」は、何故これほどまでに多くの人々を今なお惹きつけてやまないのでしょうか。

それは、高度な製織技術による見た目の美しさだけではありません。
この連作には、500年の時を経てなお解明されていない”謎”が眠っているのです。

本日はその不思議な作品に迫ってみましょう。

触覚

 

まずは6連作の一枚目。
舞台は深い森の中でしょうか。
旗を携えた貴婦人の周りに見えるのは一角獣の他、鳥や猿、犬や獅子、そして可愛らしい兎たち。

あるものを寓意した作品なのですが、一体何でしょう。
ヒントは一角獣の角に”触れる”貴婦人。

答えは「触覚」です。

味覚

 

続いては2作目。
侍女の差し出す皿から貴婦人が飴玉を手に取る様子に注目してください。
左手に止まった鳥へ餌付けしているのでしょうか。
よく見れば足元の猿も赤い実をほおばっていますね。

そう、この作品の主題は「味覚」です。

嗅覚

 

そして花輪を作る貴婦人の様子を描いたこちらは、貴婦人の後方で籠いっぱいに摘んだ花の匂いを嗅ぐ猿の様子で「嗅覚」を表現しています。

 
同様に、貴婦人がパイプオルガンを奏でる4作目が「聴覚」。
座り込む貴婦人の膝元に伏せる一角獣に鏡を見せる様子を描いた5作目が「視覚」。
この2点は非常に分かりやすいですね。

聴覚
視覚


このように、人間や動物に備わる5つの感覚機能という抽象的な概念が、見事に具象化されています。
さて問題は、6作目なのですが・・・

ここで特筆すべき点は、中央に設けられた深青色のテントの前に立つ貴婦人が、侍女が差し出す箱の中から首飾りを取り出して(または箱へ戻して)いること。
そして、テントの上方部に書かれた謎のメッセージ「À Mon Seul Désir」(我が唯一の望みに、の意)。
この2点が何を暗喩しているのか、その解釈をめぐって実は研究者の間でもいまだに決着がつけられていません。

一般には、第六感と言われる「理解力」や「愛」、「処女性」などが有力とされていますが、いずれも十分な証拠がなく推測の域を出ていないのが現状。
近年の研究では、人間と動物たちとの相違の一つである「物欲」であるという新説も浮上していますが、一体制作者の本当の意図は何だったのでしょうか。
その真相は今も謎に包まれたままなのです。

「ハリー・ポッター」シリーズの一場面

 
しかし、本当の答えが何であるにせよ、人々の想像やロマンを大いに掻き立てる作品なのでしょう。
映画「FOUJITA」以外にも、ハリー・ポッター映画や、詩人リルケの小説などにも登場しています。


永遠に謎が解けないという普遍的なミステリアスさ。
そこにこそ、作品の真意があるのかもしれませんね。

(R・K)