東京国立近代美術館「No Museum, No Life?ーこれからの美術館事典」
こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。
吊り道具に梱包材に額縁・・・・一体これからどんな美術展が始まるのでしょうか?
いえいえ、これは搬出入の作業中の風景ではありません。
実は、これらの品々はある美術展に出品された展示物そのもの。
つまり立派な美術作品なのです。
でも、そもそも美術って何?美術館って何?
そんなシンプルな疑問が湧き起こってきますよね。
普通の美術展らしからぬ作品が展示されたのは、
東京国立近代美術館で開催された「No Museum, No Life?―これからの美術館事典」展。
「美術館」そのものをテーマに、建築(Architecture)や照明(Lighting)、収蔵庫(Storage)など美術館を構成するAからZまでキーワードを挙げて「美術館」を検証する、というユニークな展覧会です。
出品作品にはデューラーからクロード・ロラン、藤田嗣治やルノワールなど大家の芸術作品も各キーワードに合わせて展示されていて見ごたえ十分。
制作年代や美術様式、媒体や主題が全く違う作品が一堂に会し、全ての出品作品は日本が誇る5大国立美術館のコレクション。
つまり、日本国民の財産なのです。
Bのキーワードのテーマは 「観る者(Beholder)」。
このセクションでの主役は、私たち鑑賞者です。
そこに訪れる鑑賞者がいて初めて機能を発揮する美術館。
作者の意図はどうであれ一つの作品には鑑賞者の数だけ解釈が存在し、そうした意味では「宗教画」や「風景画」などと一概に判断することはあり得ないのかもしれません。
Pは「来歴(Provenance)」。
芸術作品に限らずそうですが、物がそこにあるためには必ず経緯があります。
このセクションでは、現在国立美術館が所蔵するルノワール作品が洋画家の梅原龍三郎氏からの寄贈だったことに着目(つまり来歴)。
ルノワールの色彩や造形力に深く影響を受けて梅原が制作した油彩画をルノワール作品と並列して比較展示することで梅原の気持ちにちょっと近づける?ような気がします。
美術館が所蔵する美術作品は、劣化を防ぐため年間の最大展示日数が規定されています。
「収蔵庫(Storage)」のセクションでは、作品が1年の大半を過ごす居場所をご紹介。
「観る者(Beholder)」が減ってしまうのは悲しいですが、適切な室温や湿度のもと作品が長生きできるよう管理されています。
普段は見えない美術館の内側を見せることで改めて美術館は何か、を私たちに問いかけた本展。
個人的には、今回紹介された36個のキーワードの中で特に重要なのは「教育(Education)」ではないかと感じました。
作品があっても、美術館があっても、それを伝える人と受け取る人がいなければ美術の存在意義はありません。
「美術館」というと堅いイメージがつきものですが、各美術館が実践する様々な教育普及活動が今後ますます増え、もっと気軽に自由に楽しく体験できる場になるといいですね。
(R・K)