東京ステーションギャラリー「君が叫んだその場所こそがほんとの世界の真ん中なのだ」展


こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

さて、少し長めの本日のタイトル。
先週より東京ステーションギャラリーで始まった企画展名です。
このユニークな名前の企画展の大きな特徴は、フィクションとリアルを融合させた不思議な美術館体験ができるということ。
一体どういうことなのでしょうか。
企画展の主役は、その展覧会構想者の一人である原田マハ氏が自身の新作小説『ロマンシエ』の中で舞台にしたパリの版画工房。

この場所は、idem(イデム)工房という名の、パリ・モンパルナスに実在する老舗リトグラフ工房です。
前身であるムルロ工房の創業は1852年に遡り、創業者の息子フェルナン・ムルロが1914年に受け継いだ後工房は大きく発展。
シャガールやマティス、ピカソ、ブラックやミロなど20世紀を代表する錚々たる多くの芸術家が、名刷師たちとともに版画作品を生みだしていった創作の場です。

イデム工房の内部

さて、本展では現オーナーであるフォレスト氏が工房を「idem」と改称後、工房で現代アーティスト20名と手がけた約130作品を一堂に展示。
アーティストの中には映画監督としても知られるデヴィッド・リンチやフランスのストリートアーティストJR、日本人芸術家やなぎみわ氏の作品も。 

先人たちが回し今なお稼働を続けるプレス機や、研磨材で表面を磨きながら幾度となく使用されてきた分厚い石版たち。
この展覧会には、今も残るそんな工房の<旧>の姿に敬意と誇りを持ちながら、彼らが自分の時代<新>を創りだしていこうという姿勢がありありと伝わってきます。

JR「”テーブルに寄りかかる男”の前のポートレート、パブロ・ピカソ、パリ、フランス」

例えば、フライヤーにもなっているJRの作品。
「”テーブルに寄りかかる男”の前のポートレート、パブロ・ピカソ、パリ、フランス」
この作品の制作過程が大変ユニークなのでご紹介しましょう。

ピカソ「”テーブルに寄りかかる男”の前のポートレート」
ピカソ「テーブルに寄りかかる男」

 

キュビスム様式のピカソらしい表現で1915-16年に描いた「テーブルに寄りかかる男」(左)と、その作品の前に実際に立つピカソを映した肖像写真(右)。
JRはこの写真のピカソの「瞳」部分だけを拡大。
拡大したドットのピクセルを実際にイデム工房の棚に貼り付け、その全景を撮影。
さらに、その現像写真をリトグラフで制作したという非常に手の込んだものなのです。

デュフィ「ヴァイオリンのある静物」

実はこのイデム(旧ムルロ)工房。
弊社がプロデュースして制作した<ラウル・デュフィ没後50周年記念版画>の際にも大変お世話になった工房です。
様々な芸術家や画商たちとの協働活動を行なうidemの”今”が分かる企画展。
是非行かれてみてはいかがですか?

小説に出てくる台詞、「君が叫んだその場所こそがほんとの世界の真ん中なのだ」の理由が分かるかもしれません。

<ラウル・デュフィ没後50周年記念版画>について詳しくはこちら

(R・K)