オルセー美術館「Splendour and Misery:1850年~1910年を生きた娼婦たち」展


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現在、パリのオルセー美術館では、現代社会にも通じるある主題を取り上げた初の大規模な企画展が開催されています。
さて、そのテーマとは、何と「売春」。

遠い昔から、画家や小説家、詩人や音楽家など芸術家の心を捉えてきた存在でありながら、彼女たちはどこか蔑まされ社会的タブーとして扱われてきました。

オペラ座

今回の展覧会はこうした陰の世界を軸に、近現代芸術の変遷を読み解く非常にユニークな試み。

長い売春婦の歴史の中から、パリの都市の様相が劇的に変化した1850年から1910年にスポットを当てて多角的な考察をしています。
第二共和政からベル・エポックに渡るこの時代は、産業革命の影響により国民の生活環境が改善。
また、オペラ座やエッフェル塔などが建造されパリの街並みは大変化しました。

ムーラン・ルージュ

人々は、観劇や競馬などを余暇の楽しみにし、ムーラン・ルージュなどの娯楽施設も次々と登場。
華やかなショーやエンターテイメントが夜毎繰り広げられました。
その綺羅びやかなスポットライトの光の裏で、踊り子たちは何を思い、どんな生活をしていたのでしょうか。
”性を売り物にした職業”と一口にいえども、その業態は千差万別。
道端で客引きをする売春婦から、売春宿に登録している公式な娼婦、裕福な顧客を多く持つ社会的ステータスの高い高級娼婦・・・
さらにはキャバレーの踊り子やオペラ座のバレエダンサーなども、華々しいショーエンターテイメントの陰でパトロン男性の妾のような存在になるという意味では、娼婦と同じ境遇でした。

ではこの時代。
画家たちはどのように彼女たちを見つめていたのか。
下の2点はストリートウォーカーと呼ばれる道端で客引きする売春婦たちを描いた作品。
カフェのテラスで、アブサンと煙草を片手に憂鬱げに佇む女性は、特にマネやドガが好んで描いていますね。
彼女たちの多くが、花屋や針子などの低賃金労働の副次収入としてこの世界に身を置かなければなりませんでした。


そして、こちらの下2点は時代の世相を反映した売春宿の様子。
伝統的な裸婦像に飽きた画家たちには打ってつけの題材で、多くの画家が彼女たちの世界を描きました。
正式に登録されたプロフェッショナルな娼婦である彼女たちは、顧客と長期間契約できるよう、性病などに感染していないかどうか定期的なメディカルチェックを義務付けられていました。

ヴァロットンは、仕事前に体を清潔にし身支度する様子をありのままに描いています。(右)


そして、こちらエレガントで美しい身のこなしのこちらの女性は、マネの「オランピア」や椿姫の「マルグリット」でも有名な高級娼婦。
クルチザンヌと呼ばれ、王侯貴族からの厚い庇護のもと名声を得ただけでなく、時代のファッションリーダーとして女性が憧れる存在でもあったのです。


そして、シルクハットを被った男たちが女性を吟味しに群がるオペラ座やキャバレーを描いたこちらの作品。
パトロンになることが決まったのでしょうか。
右下で男に何かを囁かれている若い女性の複雑な切ない表情に、胸が締めつけられます。

今回の展示で特筆すべきは、カナダ出身のオペラ演出家ロバート・カールセンが監督していること。
乱れたシーツが載せられた高級娼婦のベッドを再現した展示まであるそうで、さすが、舞台演出家が手がけただけありますね。

人類最古の職業とも言われる「娼婦」や「売春」。
今まで隠されてきた部分にあえてフォーカスする美術界の積極的な流れは、今年開催された日本国内初の大規模な春画展などにも表れています。
これからも世界中で斬新で前衛的な展示が開催されることに注目しましょう!

(R・K)