エドゥアール・マネ「水彩の手紙」のご紹介

制作年:1944年
出版社:Raymond and Raymond, Inc.(ニューヨーク)
技法:ポショワール
部数:345部

こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

電子メールが発達した昨今では、書いたり受け取ることが少なくなってしまった葉書や手紙。
しかし、人柄の表れた筆跡や真心がこもった手書きの文章には、電子メールを通しては絶対に伝わらない温かみがありますよね。

ゴーギャンがゴッホに送った手紙

 

日本では夏目漱石や谷崎潤一郎、島崎藤村ら文豪たちが書いた手紙の発見が最近話題になりましたが、西洋の芸術家も数々の手紙を残しています。
ゴーギャンやゴッホ、マティスやピカソなどなど・・・

サロンや個展で発表するような力の入った作品制作ではなく、気心の知れた仲間や心安らぐ相手を想って書かれた手紙にこそ、芸術家の本性が隠れていそうな気がします。


本日ご紹介する作品の題材は、近代絵画の父と呼ばれるエドゥアール・マネ(1832-1883)が晩年に残した手紙。
1870年代後半より体調を崩したマネは、その療養のため郊外のベルヴュに移り住みました。
自然に囲まれたのどかな村で制作を続けながらも、生まれ育った都会パリの華やかな生活を恋しく思ったのかもしれません。
当時お気に入りのミューズのことを想いながら・・・

マネが描いたイザベル・ルモニエ嬢

療養中のマネに深い影響を与えたと言われる、このミューズの名はイザベル・ルモニエ(Isabelle Lemonnier 1857-1926)。

ナポレオン3世に仕えた宝石商である父、そして出版人のジョルジュ・シャルパンティエに嫁いだ姉を持つイザベル。
幼いころから華やかな社交界に慣れ親しんでいたのかもしれません。
ゾラやモーパッサンらの小説を出版し成功したビジネスマンであり、パリ万博のスポンサーでもあった姉の夫シャルパンティエは、自宅で度々夜会を開催。
当時の芸術家や文化人と太いつながりを持っていた姉夫妻を通じ、イザベルも多くの芸術家と交流したようです。
この夜会の常連の一人だったマネは、イザベルの美貌やエレガントな身のこなしに、たちまち惹きつけられました。

ちなみに、こちらはルノワールによって描かれた姉マルグレットの肖像画と彼女の写真。
洗練された佇まいと知的な印象で、芸術家の心を捉えた姉妹だったのでしょう。

ルノワール「シャルパンティエ夫人とその子供たち」
マルグレット・シャルパンティエ

本日ご紹介する作品「手紙」は、晩年のマネが療養先でこのイザベル・ルモニエへの淡い気持ちを綴った水彩の手紙。
余命がそう長くはない(ベルヴュに移って3年後に死去)ことを感じていたマネが、逆にその苦しみを払拭し、生きる喜びを讃えようとしたのでしょうか。
本作にはエネルギッシュな若さや美しさへの憧憬のようなものが満ち溢れているようです。

原画である手紙そのものはルーブル美術館が保管していますが、この中から1944年にニューヨークの出版社が21葉の手紙を抜粋。
ポショワールという版画技法で1944年に345部限定で復刻しました。
額に入れて飾るととても素敵です。
作品ページはこちら

1944年出版「マネの手紙」の一部

さらに、こちらは弊社プロデュースで2007年に150部限定で制作した複製版画。
手紙の中から傑出した文章力と図柄の美しい作品3点を選び、デジタル技法とシルクスクリーンを合わせた独自の版画技法「ネオシルク」を用いて、原画により忠実に再現しています。
水彩で描かれたマネの珍しい作品が題材になっていることもあり、足をお止めになられるお客様が多い人気の作品です。

今月の企画展ではこの3点組の他に、ニューヨークの出版社による1944年版作品を数点額装販売しております。
マネの達筆な文章と明るく軽やかな挿絵が見事に調和した、傑作の「手紙」です。
作品ページはこちら

ご質問等ございましたらお気軽にお電話(0422-27-1915)またはこちらよりお問い合わせください。

「マネの手紙・3点組」(ネオシルク 2007年 限定150部)

(R・K)