西洋絵画の伝統手法「擬人化」

こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

突然ですが、これらの3点の絵画に描かれた女性たち。
容貌や服装もバラバラですが、ある共通点でつながっています。
それは、一体何でしょうか?

正解は、これらの作品は全て「正義」を主題にしていること。
つまり、目に見えない抽象的なものである「正義」を擬人化し、女性の姿に変えて可視化した作品なのです。
作者はそれぞれ、
左:ヤコブ・デ・バッカー(Jacob de Backer 1555-1585)
中:ピエール・シュブレイラス(Pierre Subleyras 1699-1749 )
右:ラファエロ・サンティ(Rapahel Santi 1483-1520)

どの女性も、公正に物事を計る天秤と、権力を象徴する剣を携えています。
彼らは古代ギリシャ・ローマ神話に登場する正義を司る女神テミスと同一視されていて、正義の英語Justiceの語源は、テミスのローマ名ユースティティア(Jūstitia)。
古来より、司法の力や公正さのシンボルとして崇められた正義の女神です。

またこの「正義」以外にも、愛や純潔、信条などを擬人化した作品は西洋絵画に伝統的に見られ、時代や超えて多くの画家達により描かれました。
では、一体なぜなのでしょうか。

ここからは個人的な解釈も入りますが、識字率の低かった当時において、聖書や書物に書かれた説話をより多くの庶民に理解してもらうためには、教えを可視化した強いインパクトのある絵画が効果的だったのではないでしょうか。
威厳ある正義の女神が描かれた絵画を前にした人はきっと、「自分の行動で自分の良心を裏切ってはならない」という教えを実感したことでしょう。

「冬」
「カーネーション」

今回ご紹介した作品たちから時代はだいぶ下りますが、そうした西洋絵画の伝統を汲んでいるかもしれません。
ミュシャもまた、時間や季節を擬人化した作品を多く手がけた芸術家。

先人たちと比べると、宗教的あるいは教訓的な要素はほとんどありませんが、見えないものだけでなく、花や宝石、星など見えるものも女性に擬人化しました。

こうした人でないものを擬人化するという手法は、写実画や肖像画と違い、芸術家が自由に創造できるためイマジネーションを刺激する格好の主題だったのかもしれませんね。

ミュシャの取扱作品はこちら

(R・K)