エミール・ガレ「バッタとナズナ文グラス」のご紹介


こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

美しい桃色の桜を愛でた春の訪れがつい先日のようにも感じる今日この頃。
季節はすっかりと巡り、生き生きとした新緑の匂いたつ初夏の気候になってきましたね。
四季折々の自然を愉しめる日本の豊かな風土に改めてありがたみを感じます。
山種美術館で現在開催中の「花*Flower*華 ―琳派から現代へ―」展は、まさにそうした贅沢な四季の自然を堪能できる絶好の場所。

日本画を中心とした同館コレクションの中から、四季の花々を描いた作品が一堂に展示されています。

鋭い観察眼と柔らかな愛情をもって先人たちが絵画化した花々は、まるで永遠の命を吹き込まれたよう。
作品の前に立てば、四季の情緒とともに、瑞々しい花の香りや風のざわめきまでをも感じるような美しいひと時でした。
こうした、”まるで本物の草花の命がそこに宿っているよう”という感覚は、ギャルリー・アルマナック吉祥寺アトリエ・ブランカ軽井沢にお越しくださったお客様に
絵画やアンティーク工芸品をご紹介させていただいた時にもよくいただくご感想です。

本日ご紹介する最新入荷作品、エミール・ガレ作「バッタとナズナ文グラス」
高さわずか8cm程の小さな小さなガラス作品からも、自然界の大きなダイナミズム、生命の鼓動が間近に聞こえてくるようです。

エミール・ガレ「バッタとナズナ文グラス」
制作年:1880年代頃
技法:月光色ガラス、アイス・クラック、エナメル彩、エモー・ビジュー
高さ:7.8cm

本作は、ガレの創作活動の中で最も初期である1880年代頃に手がけた作品の一つ。
この時代より遡ること十数年前。
1867年の万国博覧会を通して西洋に紹介された日本の美術工芸品は、19世紀後半のヨーロッパにジャポニスムと呼ばれる日本趣味の流行をもたらしました。
動物や草花など自然界の事象を主役にする日本芸術の心は、自然や動物は人間によって支配・管理されるものである、と当然のように考えてきた西洋人にとっては衝撃的だったことでしょう。

-自然に風情や趣きを感じ、そこに人生の無常観をも重ねる―
ガレもそうした日本美術の哲学に大きく影響を受けた一人。
観察主義に基づく精密なスケッチや日本文化の真髄を積極的に吸収するなど、西洋と東洋の伝統を大切にしながらも、独自の素材や技法も新たに開発。
挑戦と革新を忘れぬ姿勢で今日まで残る名品を残しました。

本作に描かれたナズナとバッタは、2ヘクタールにも及ぶ広大な私庭でガレが育て慈しんだ生物でしょうか。
彼らを見つめるガレの優しい眼差しがそのまま表れているようです。

また、特筆すべき本作の特徴が、ほんのりと青みを帯びたガラス素地<月光色ガラス>と、側部にめぐらされた亀裂のような模様<アイス・クラック>。

<月光色ガラス>は、透明なガラス地に茶色い酸化コバルトの粉末を加えたもの。
ガレが1878年のパリ万博時に発表し、その後特許を取得。
うっすらと青色に浮かび上がる世界が幽玄さを醸し出します。



16世紀ヴェネチアのガラス職人が発明したと言われる<アイス・クラック>は、熱く溶融したガラスを冷水につけヒビを生じさせ、すぐに再加熱しその亀裂を中に閉じ込めるというユニークな技法。
この技法に着目したガレやモーゼルら19世紀のガラス工芸家により広まりました。
太陽の光に当てると、さらにガラスが生きているように輝きだします。

さらに、今にも動き出しそうな躍動感のあるバッタは、金彩で縁取りをしたのちに、内側をエナメル彩で彩色するエモー・ビジュー(宝石七宝)と呼ばれる技法で色付け。
生物に神々しさを与えるこの彩色技法は、ガレやドームにより特に好んで用いられました。
この他、「蝶と花文花器」、「薊文花瓶」、「ペア花文グラスセット」など、涼しげな色味で爽やかな印象のガレ作品が届いてまいりました。
これからの季節にもぴったりの逸品たちです。

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(R・K)