17世紀より続くヨーロッパの美しき伝統工芸「マーブル紙」


こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

重厚感のあるいかにも古そうな書物たち。
これらは当店が所蔵する19世紀末頃の美術古書のほんの一部。
中を開くと、古書独特の匂いの先に息をのむほど美しい版画が眠っています。
まるで、そのページがめくられるのを何十年も待ちわびていたかのように。

一ページ一ページ丁寧に観ていても飽きることのない古書ですが、本日の主役は本の「見返し」。
書籍の中身と表紙をつなぎ補強するために表紙内側に取り付ける丈夫な紙のことで、製本上重要な役割を果たしています。

こちらは、それぞれの古書を開くと現れる見返し。いかがですか?
中の版画もさることながら、書籍本体とは直接関係のない見返し部分もまるで一つの芸術のようですね。

洋古書に綴じられたこうした見返しは、その大理石(Marble)のような模様からマーブル紙と呼ばれていますが、明確な歴史や起源は分かっていません。

恐らく、最初に東洋または中東付近のどこかで始められ、十字軍や交易を通じて徐々に西洋に伝播し、特に17世紀より西洋での製法が確立したと言われています。
彩色写本のように複雑に入り組んだ文様は、熟練した職人のみが成せる超絶技巧。

それを物語るこんな逸話も残っています。
中世より近世にかけてのヨーロッパ社会では、鍛冶職人、鋳物職人、金工職人など商工業者たちは「ギルド(組合)」と呼ばれる職業別の工房で専門技術を習得するのが一般的でした。
同様に、美しいマーブル模様を作る技術は、専門職人のギルド(組合)が存在。この組合は、製本を手がける装丁専門の職人ギルドとは別の組織でした。
しかし、製本ギルドの職人たちは次第に、装丁に必要なマーブル紙のマーブリング技術を盗み、自分たちでマーブル紙を制作することで製本コストを下げようと策略。
技術の盗用を恐れたマーブルギルドの職人たちは、自らのギルドと伝統技術を守るため人々が寝静まった夜中に集まり、秘密の場所で黙々と作業を続けたんだとか。

こうして何百年も伝わるマーブリング技術ですが、秘密に受け継がれてきたこそそれを継承する職人も激減。
その状況を危惧した19世紀の職人Charles Woolnoughは、マーブリング製法を詳述した「The Art of Marbling」を1853年に出版しました。
イタリアのフィレンツェなどでは、マーブル紙の伝統と魅力を伝える職人の工房が今も残っています。
どんなに熟練した職人でも隅から隅まで全く同じ文様は作りだせない一点物。
今度古い書籍に出会ったらそっと表紙を開けてみてください。一期一会の文様にきっと巡り合えるはずです。

(R・K)