永遠の輝きを放つロイヤルコペンハーゲン名作「フローラ・ダニカ」

こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

ともに嗜む仲間、時間、場面、淹れ方、器・・・いくつもの要素が呼応しあい味覚だけではないひとときを味わえる。
そんな茶文化の奥深さを体験できる注目のイベントが今秋開催されるそうです。

JAPAN TEA EXPO 2025(詳細は公式をご確認ください)

イベントのウェブサイトでは、世界各国から集まった茶葉を試飲する来場客らの昨年の様子が紹介されていましたよ。
お気に入りの器とともに楽しむ優雅な一杯はきっと格別なことでしょうね。


皆さんにも毎日愛用するマイカップや、特別な時にだけ使うもの、または普段は飾って鑑賞し、時々そっと戸棚から取り出して触れたり愛でるもの、などがありますか?

本日は、デンマークの名窯ロイヤルコペンハーゲンが生み出した、麗しいティーカップをはじめとする至極のディナーセット「フローラ・ダニカ」をご紹介します。

クリスチャンボー城に並ぶ《フローラ・ダニカ》のディナーサービス一式
Photo: Edelseider, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons. (編集あり:角度補正)

「フローラ・ダニカ」。
その英訳はFlowers of Denmark 。
つまり、”デンマークの花々”の意味。
その名の通り、デンマークに咲く植物をモティーフにしたカップ&ソーサーやテーブルウェア一式で、その繊細なデザインや卓越したクラフトマンシップが世界中の人々を今も魅了しています。

1889-1922年まで使用されたバックスタンプ

ロイヤルコペンハーゲンは1775年に創設された歴史ある古窯。
デンマークを囲む3つの海峡を模した波と、先端にダグマー十字架をいだいた王冠で構成されたバックスタンプで知られています。
バルト海を拠点に活発な海運業で財を築いたデンマークらしいデザインです。

当時のヨーロッパでは、大航海時代を皮切りに中国や東方から続々と運び込まれた白磁や青磁が大ブーム。
美しい白色磁器をなんとか自国で生産しようと各国が試行錯誤します。
しかし、上質な硬質磁器に不可欠な原料である鉱物カオリナイトの採掘が容易ではないこと。
加えて、他原料との調合の割合や精製に高度な技術を要するため、どの国もなかなか納得のいく結果に結びつきませんでした。
そんな中、現ドイツのマイセン窯が苦心の末に1709年、ヨーロッパで初めて白磁製造に成功。

アウグスト選帝侯に仕上がりを見せる錬金師ベドガー(マイセン窯)

追随するように、アウガルテン窯、フュルステンベルク窯、KPM窯やセーブル窯といった磁器工房が誕生していき国力増強の一手段として白磁の開発や生産に力を入れていきます。

バルト海の覇権をかけた
デンマーク=ノルウェー連合国対スウェーデンの闘い

ロイヤルコペンハーゲンを擁するデンマークは、フランスや神聖ローマ帝国などの大国に比べて小国ですが、北欧諸国の統一を目指しスウェーデン、ノルウェーとともに14世紀後半に結成した「カルメル同盟」や輸出業の発展により、徐々に影響力を拡大。
一時はハンザ同盟に脅威を与えるほどの結束力がありました。
しかし、デンマークの支配的な立場に他国が不満を抱きスウェーデンが脱退すると、同盟の結束は弱体化。
さらにそののち、ヨーロッパ全域を巻き込んだ三十年戦争に介入して失敗すると、領土の大部分を失い、デンマークの衰退は決定的となりました。

そうした経緯もあり、その後に即位した君主らは隣国との戦争には極力介入せず中立的立場を貫き、代わりに文化的政策に取り組むようになります。

ロイヤルコペンハーゲンが生まれたのはそうした時代のさなか。

皇太后ジュリアン・マリー

コペンハーゲン王立劇場の創立や植物百科事典の出版など国内の充実化に傾注した国王フレデリク5世(在位:1723~1766年)の逝去後、皇太后となったジュリアン・マリー(1724~1796年)は、前国王の文化芸術的功績と意志を引き継ぎます。
彼女は、1755年にデンマーク領ボーンホルム島からカオリナイトが発見されると、白色磁器の製造開発に尽力。
そしてマイセンの開窯から遅れること60余年、ようやく薬剤師フランツ・ハインリッヒ・ミュラーがデンマークで初の硬質磁器製造に成功し、翌年の1775年、国家の全面的な資金援助により「ロイヤルコペンハーゲン」窯が誕生しました。

神聖ローマ帝国の公国出身であるジュリアン・マリーの長兄カール1世はフュルステンベルク窯の創立者としても知られており、兄の努力やマイセン窯の成功を肌で感じ、自身もデンマークで製陶所を設立させたいという思いが人一倍強かったのかもしれませんね。

開窯後、最初に制作されたディナーサービスは今も定番の人気を誇る「ブルーフルーテッド(Blue Fluted)」コレクション。
たおやかで繊細な曲線が美しく、シンプルでエレガントながらもどこかに凛とした芯の強さを感じる作品です。

さて、デンマーク情勢のその後・・・

エカチェリーナ2世

対外的には他国へ不干渉の立場を長く崩さなかったデンマークですが、1788年にロシア=スウェーデン戦争が勃発すると、バルト海の覇権を握りつつあったスウェーデンの威力に対抗するためロシア側に加勢。
しかし、デンマークは再び戦争介入に失敗します。
その償いを込めて、ロシア女帝エカチェリーナ2世へ新しいディナーサービスを贈答することとなりました。
当時、外交手段の一つとして自国で製造した陶磁器類を贈ることは国家や貴族の間でごく自然なことでした。

その際に、国王クリスチャン7世と皇太子フレデリク6世の指揮のもと1790年に発注されたディナーサービスが「フローラ・ダニカ」コレクションです。
先ほど、少し触れた先王フレデリク5世の功績の一つ、「植物百科事典の出版」。
これこそが「フローラ・ダニカ」と呼ばれる植物百科事典であり、このディナーセットの典拠になりました。

出典:Royal Danish Library/Wikimedia Commons(Public Domain)

 

時は啓蒙思想が展開した知性の時代。
人間の理性に基づき世界を理解しようとする運動で、同時に自然科学への興味や観察が大いに進んだ時代でもあります。
1761年に初期の出版が開始された植物百科事典は、デンマーク全土に自生する花々のみならず、コケ類や地衣類、菌類などもすべて網羅した学術的植物誌です。
全51冊+補遺3冊(計54冊)/総3,240図版という規模は、王立の庇護のもと進められた国家事業のスケールを物語ります。

さて、ディナーサービスの発注を受けて、その重大な任務をほぼ一人で遂行したのがヨハン・クリストフ・バイエルという画家です。
彼は、典拠となった植物誌の編集にも携わっており、国王からの絶大な信頼があったのでしょう。
一葉一葉丁寧に手描きされた草花は1800種類にも及び、およそ12年の歳月をかけて1802年に完成されました。

コリングフス城博物館(Koldinghus)「Flora Danica – Verdens Vildeste Stel」展示風景。 図譜の植物画が磁器の絵付けへ写し取られた関係が一目で分かります。
Photo: Leif Jørgensen, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons.

ところが残念なことに、本来の贈り先であったエカチェリーナ2世はこの時すでに世を去っており、翌年の1803年国王クリスチャン7世の誕生会でお披露目されました。

最後の公式使用は1990年イングリッド女王の誕生会の際で、以降は品質保持のため現存する約1500点のオリジナルコレクションはデンマークの各城で大切に保管されているそうです。

クリスチャンスボー城にて展示されているオリジナルの「フローラ・ダニカ」コレクション
photo credit : Richard Mortel, 2017

「フローラ・ダニカ」は現在、工房に認められた高度な知識と技術を持つ限られた職人たちの手により、注文を受けた分のみ受注生産されています。
その魅力は絵付けの美しさにとどまりません。
製造工程では少なくとも8回の焼成を繰り返し的確な色合いやニュアンスを追求。
また、寸分の狂いもない透かし細工やギルディング(箔置き)技術にも目を見張ります。
作品の裏面には伝統のロゴマークとともに典拠となった植物名、さらに絵付師とギルディング職人のイニシャルも添えられており、熟練工たちの気概を感じますね。

世界一豪華なディナーセットと謳われるこの「フローラ・ダニカ」コレクション。
デンマークが紡いだ波乱の歴史とともに、受け継がれてきたクラフトマンシップの真髄が伺える芸術品です。


当店では現在「フローラ・ダニカ」のカップ&ソーサーや「ブルーフルーテッド ハーフレース」のティーセットなどをお取り扱いしております。
大変稀少価値が高く、市場に出回ることが少ないヴィンテージのお品です。
ご興味のある方は是非お問い合わせくださいませ。

 

(R・B)

【筆者プロフィール】 東京都出身。都内の大学を卒業後、ハワイ大学へ4年間留学。歴史学部卒業。その後、美術史に興味を持ちハワイ州ホノルル美術館でのガイド経験や国立西洋美術館でのインターンを経て、2012年学芸員資格を取得。翌年よりアトリエ・ブランカに入社、海外仕入補佐、作品解説等を担当する傍ら、スタッフブログを担当。2018年に結婚を機に一時アメリカへ移住。子育て期間を経て2024年12月よりブログを再開。

(参考文献)
https://floradanica.royalcopenhagen.com/
Arnold Krog
https://wunderkammertales.blogspot.com/2016/03/the-white-gold-from-dresden-johann.html
https://bruun-rasmussen.dk/m/lots/E5682E8BE322?auction_day_id=1006027&category_id=484