エミール・ガレ「猫型置物」「兎型置物」のご紹介

こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

https://www.soulouposeto.gr より

筆者が現在住むアメリカでは、このほどキリスト教の伝統行事「イースター」の祝祭が各地で開催されました。
イースターは十字架にかけられて3日後に復活したと言われるイエス・キリストの奇跡を祝うお祭りで、毎年”春分の日のあとにやってくる満月の次の日曜日”と設定されています。
その記念祭を待つ数週間の間、街の店々にはたまごやウサギ(由来は諸説あり)などイースターにちなんだたくさんのアイテムが溢れ、温かくなってきた春の訪れとともにどこかワクワクした気持ちにしてくれる心躍る時期でもあります。

さて、そんな祝祭のシンボルであるイースターバニーを連想させる愛らしい兔がここにも一匹。
鼻をひくひくさせながら今にも跳ね回りそうなリアルで躍動感のある兔ですね。
実はこの兔、植物や昆虫など自然の事物をあしらった象徴的なガラス工芸作品で知られるエミール・ガレが手がけた“陶器”なのです。

エミール・ガレの父親シャルルは、フランスのナンシーでガラスと陶器の製造販売業を営んでいた事業経営者。
1866年にはナポレオン三世からの皇帝御用達認定を授かるほどの逸材でした。
そんな父親の姿を見て育った彼が工芸作品に興味を抱くようになったのは自然なこと。
また、草花や自然を愛する父方の祖父母や家庭教師らの影響で幼いころから植物の観察やスケッチが好きでした。


この時代としては珍しく、一人息子として育てられたガレは古典教育に基礎を置く教養をしっかりと身に付け、文学系バカロレア(大学入学資格)を取得。
家業を継ぐ身としての将来を見据えた考えからでしょうか、翌年にはドイツのワイマールに留学し、ドイツ語や鉱物学、音楽など多岐にわたる学識を深めました。


薩摩藩の出品物が披露されたパビリオンの様子
(1867年パリ万博)

1867年、21歳の時に父親の事業に正式に加入。
陶器とガラス器の商品開発や製造管理を担当します。
同じ年、父の代理で参加した第二回パリ万国博覧会では、半年間パリに滞在。
折しもこの時に初出品し、そののちヨーロッパにジャポニスムブームを巻き起こすきっかけとなった日本からの舶来品にじっくりと触れたことは彼のクリエーションに多大な影響を与えていきました。


また、1885年に森林学校の給費留学生として渡仏した高島得三(のちの画家・高島北海)との交流は、日本由来の植物コレクションを拡大する大きな助けとなり、また表層的な意匠ではない感覚的な精神世界に通ずる日本美術の真髄を理解するきっかけとなります。
そして、1889年の第四回パリ万国博覧会においてはガラス器300点、陶器200点、家具17点など多様な作品を展開。
どれも輝かしい成功を収めたものの、それから先はグランプリを獲得し注文が殺到したガラス作品の制作に注力していくこととなります。
以降、「ひとよ茸ランプ」や「もの言う花瓶」シリーズを筆頭に被せガラスやパチネ、マルケトリーなど美しい技法と日本の美意識を融合した傑作が次々と生み出されていきました。

本日ご紹介する「兔型置物」「猫型置物」は、そんなガラス制作に傾注する1889年以前、若きガレが父シャルルの背中を追いながら陶器やガラス工芸における様々な技法を会得し、芸術家としての自身の道を築くいわばガレのキャリア前半期を占める作品の一つ。

19世紀半ば当時のヨーロッパでは、ブルジョワ階級の家族の団らんスペースや応接間サロンの中心にはマントルピース(暖炉とその周囲の飾り棚)が置かれ、飾り棚の上を美しく装う装飾品に需要がありました。
特に、客人の目を楽しませていたのは、東方の青白磁器や壺などのエキゾチックな品々。

小動物を模したガレの陶器も人気があったそうですよ。
客人を部屋に招き入れた際に、こんな愛嬌のある動物の陶器が出迎えてくれたら・・・きっと場の雰囲気を和ませる話題づくりに一役買ったことでしょう。

黄や白、青、黒、緑など様々に着色され、本作のように青い♡や〇があしらわれたキュートなものや、繊細な小花ブーケの絵付けが施されたもの、犬のロケットペンダントをつけたユニークなもの、貴婦人のような黒いレースの被り物をしたものまでバラエティ豊かに展開され人気を博しました。

北澤美術館所蔵「ドレス姿の猫」「三毛猫」
https://www.artagenda.jp より

黒い「猫型置物」は、漆黒の釉薬が垂れ流れるような模様が特徴的。
北澤美術館が所蔵する類似の作品に、黒、白、飴色の三毛猫も制作されており、パリ万博に陳列された薩摩焼の鼈甲釉からアイデアを得たと言われています。
釉薬のかけ具合により一つとして同じ出来にはならない、日本のやきものの趣にも似た要素が伺える面白い作品ですね。

これらは、いわゆるファイアンス(faience)と呼ばれる施釉軟質陶器で、ペースト状の陶土を鋳型に流し込んで成型後、釉薬をかけて焼成。
絵付け後に本焼きをして完成させるというプロセスでした。
また、動物のリアルな質感を生み出すために型成形の後、手づくねのような加工を施すなど趣向を凝らした作品作りに努めました。

さらに眼球に嵌め込まれたガラスも魅力の一つ。
透き通って輝きのあるガラス玉が小さな動物たちの眼差しに生き生きとした生命力を与えていますね。
何とも言えない少しひょうきんな表情からも長く愛でたくなるような愛着が湧いてくる気がしたら・・・あなたももうガレ猫たちの虜かもしれません。

昨年から今年にかけて日本ではガレの回顧展の開催が相次ぎ、大盛況だったとのこと。
ガラスのみならず、陶磁器や家具などガレの多彩な才能に多くの人が魅了されたことでしょう。

当店では現在、上記の「猫型置物」2点および「兔型置物」お取り扱いをしております。
ご興味のある方は是非お問い合わせくださいませ。

(R・B)

【筆者プロフィール】 東京都出身。都内の大学を卒業後、ハワイ大学へ4年間留学。歴史学部卒業。その後、美術史に興味を持ちハワイ州ホノルル美術館でのガイド経験や国立西洋美術館でのインターンを経て、2012年学芸員資格を取得。翌年よりアトリエ・ブランカに入社、海外仕入補佐、作品解説等を担当する傍ら、スタッフブログを担当。2018年に結婚を機に一時アメリカへ移住。子育て期間を経て2024年12月よりブログを再開。

(参考文献)
堀真子氏論文「愛知県陶磁美術館寄託のエミール・ガレ陶磁作品」
北澤美術館「ガレとジャポニスム」展 図録
https://www.worthpoint.com/dictionary/p/ceramics/ce-france/galle-ceramics
https://www.est-ouest.co.jp/catalog/detail/2025041901/64/
https://artexhibition.jp/topics/news/20231011-AEJ1627435/