ラウル・デュフィ挿画本『天使のコンサート』のご紹介

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先月のクリスマス前のことですが、アメリカのカリフォルニア州サンディエゴにあるコンサートホール《 The Conrad 》にてこども合唱団の定例コンサートを鑑賞する機会に恵まれました。
幼い未就学児らの愛らしい歌唱に若き青年少女の精鋭たちによる見事なパフォーマンス・・・

クリスマスの到来を祝う讃美歌の選曲が多かったこともあり、喉を震わせながら一語一語ひたむきに歌う彼らの姿とあいまって、まるで教会や礼拝堂のミサを思わせるような神聖な空気に包まれました。

さらに美しい歌声もさることながら、それが心地よく響き渡り反響していたのが舞台ホール。
実はこの《 The Conrad 》は、国内外で様々なプロジェクトを手がける日本の『永田音響設計』が音響設備を担当しました。
同社の音響設計家豊田泰久氏は、とある雑誌のインタビューでこう語っています。

 「壁の厚さ、その形状、曲線、材質、天井に並ぶ照明、そして音楽家自身。これらすべてがコンサートホールの音響を左右する」

舞台全体に共鳴する子どもたちの歌声を聴きながらふと思い出したのは、色が音を奏でるようなラウル・デュフィ(1877-1953)の絵画。
音楽会を主題にした作品を数多く残したデュフィもまた、会場全体に広がる”音響”の臨場感を残そうとしたのではないか、と感じました。

地元教会の指揮者兼オルガン奏者である父と、ヴァイオリン奏者の母を持ち、幼少期から音楽に慣れ親しんだデュフィ。
戦争や病気など幾多の苦難を味わいながらも生涯、”生きるよろこび”をテーマに軽やかで色彩溢れる作品を送り続けたデュフィは同時代の芸術家たちに多大な影響を与え、詩人アポリネールやマラルメ、ファッションデザイナーのポール・ポワレに劇作家コクトーらと知己をえて、数多くの共作を輩出しました。

本日は、そんな芸術家たちの一人とデュフィによる美しい名作挿画本『天使のコンサート』をご紹介しましょう。

音楽と文化を綴ったその評論集の著者の名はジャン・ヴィトルド(Jean Witold,1913-1966)。
音楽評論家であり指揮者や演出家としても活躍した人物です。
亡命したポーランド人伯爵の子として1913年パリに生まれたのち、パリ国立高等音楽院で学びピアニストやオーケストラ指揮者としての才能を開花させました。
しかし、1937年にスペイン戦争が始まると共和党新聞「Regards」の特派員記者として従軍。
スペイン政府やヴィシー政府(第二次世界大戦中、ドイツに降伏したフランスに樹立された親独派の傀儡政権)に拘留されるなど波乱万丈な半生を送ります。

第二次世界大戦後はラジオで音楽番組”Les Grands Musiciens(偉大なる音楽家たち)”を立ち上げ、その後、同番組の名プロデューサーとして人気を博しました。
こうした番組が縁でデュフィと親交を結んだのでしょうか。
デュフィ芸術の深い理解者であった彼は、自身の評論集の挿絵としてデュフィに挿絵の制作を依頼。
この作品のためにデュフィが描き下ろした2点のオリジナルリトグラフを含む29点のリトグラフが収録された挿画本『天使のコンサート』が誕生しました。

実際に出版されたのはデュフィの没後10年目となる1963年でした。
20世紀を代表するパリのムルロ版画工房の名摺師シャルル・ソルリエが石版を担当。
各奥付にはヴィトルドの直筆サインが入れられ、305部限定という希少部数で出版されました。

線が躍り、色が謡うー。
瞬間芸術である音楽と絵画が融合したこの挿画本『天使のコンサート』は、当店でお取り扱いしております。
ご興味のある方はお問い合わせくださいませ。

『天使のコンサート』全収録作品はこちらよりご覧ください。

(R・B)

(参考文献)
https://www.nagata.co.jp

聴衆の全身を感応させる「音響設計」で世界の頂点へ!|次々と名ホールを生む日本の巨匠を直撃


https://www.marlyleroi.fr/ParcoursQRcodes/571/19964