フランソワ=テオドール・ルグラ

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今回は知られざるガラス作家、ルグラをご紹介いたします。

フランソワ=テオドール・ルグラは1839年、フランス北東部ヴォージュ地方の小さな村、ダルネで生まれました。
フランスで最も美しい森のひとつに数えられる自然の中で幼少期を過ごしたことは、のちの彼の作品に豊かなインスピレーションを与えたことは想像に難くありません。

20歳で地元のガラス工房 “Clairey” に事務員として働き始め、25歳でパリ近郊のサン=ドニのガラス工房 “La verrerie de la Plaine Saint-Denis” に入ります。
サン=ドニではめきめきと頭角を現し、半年後に製造責任者、2年後に工場長に就任。
甥ふたり(シャルル、テオドール)を後継者として呼び寄せ、その後も新しい工場や労働者用の住宅を次々と建設。
1880年代には1500人の労働者を抱える大きな産業団地を完成させました。

1883年より社名をルグラ社に改称しますが、サン=ドニの商標名は残し、1897年にはパンタンと合併。
1888年バルセロナ万博での金賞を筆頭に受賞も数多く、主要な国際博覧会での審査員を歴任しました。

1907年ルグラ社の工場(www.fortunapost.comより)

企業製品のための容器、家庭用のグラスウェアや照明器具などを生産する一方、アートとしてのガラス作品を手掛けたルグラ。
彼の思想はサン=シモン主義を受け継いでいると言われます。

サン=シモン伯爵(1760-1825)が提唱したサン=シモン主義では、すべての人が能力に応じて組織の中で団結して働くことで、博愛主義を根底とした平等な社会が実現されることを目指していました。

ルグラは
「美しく、安価で、誰にでも手に入る芸術品を生み出す produire du beau, à bon marché pour un art accessible à tous
という目標を掲げ、大勢の職人やデザイナーと力を合わせ、多くの人の日常に小さな美を届けました。

1916年に死去。
甥のシャルルも1922年に亡くなり、残されたもうひとりの甥、テオドールはその後、アールデコスタイルを取り入れていきます。
1925年、工場は香水メゾンのフランソワ・コティに売却され、香水瓶を専門に作るようになりました。

あらゆる種類の植物、また、森や水辺の風景などをモチーフとした彼の作品は、エミール・ガレやドーム兄弟とともにアール・ヌーヴォーを体現しています。
ルグラの作品はサインが入れられていない場合も多く、判別のむずかしさもありましたが、近年再評価の動きが活発になっています。

2013年開催のルグラ展(Musée du Verre de Conches HPより)

 

弊社でも “小さな美” ルグラ作品を入手いたしました。
ぜひギャラリーで実物をご覧くださいませ。

 

(K・T)