フジタ,モディリアーニ,スーティンの友情

Montparnasse19こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

エコール・ド・パリの画家、モディリアーニの伝記映画『モンパルナスの灯』(1958年)は美術ファンにとって、忘れがたい一本ですね。

この映画の撮影にあたり、ジャック・ベッケル監督は当時パリに戻っていた藤田嗣治に演技指導を依頼。
モディ役のジェラール・フィリップ、その妻ジャンヌ・エビュテルヌ役のアヌーク・エーメらと語らう様子が上の写真です。
藤田は尽きることのない、亡き親友との想い出を俳優たちに話したことでしょう。

モディはモディリアーニの愛称で、映画内でも皆から「ムッシューモディ!」と呼ばれています。
実はフランス語の” Maudit =呪われた “という意味も込められていたんだとか。

1913年10月、貸アトリエ(シテ・ファルギエール)に入居した藤田は隣人となったモディ、スーティンと交友を深めます。

映画の中でモディは南仏で療養しますが、現実では1918年春から夏、ジャンヌの他にもジャンヌの母、画商ズボロフスキー夫妻、藤田と妻フェルナンド、スーティンが同行。
カーニュ=シュル=メールに晩年のルノワールを訪ねたり、気の置けない仲間たちと充実した日々を送ったようです。

左:ジェラール・セティ(ズボロフスキー役) 右:リノ・ヴァンチュラ  filmwebより

映画の冒頭に「この物語は史実にもとづくが、事実ではない」と説明がある通り、全体にかなり脚色が加えられています。
以前リバイバル上映を観たときはメロドラマという印象を受けたのですが、今回DVDで見直してみると、ベッケル監督らしいフィルム・ノワール(犯罪映画)としての要素が色濃く感じられました。
実在したか定かではない、リノ・ヴァンチュラ扮する画商モレルの悪役ぶりは特筆すべきでしょう。

シャイム・スーティン <セレの丘> 1921年頃 ロサンゼルス・カウンティ美術館所蔵

ラストシーンはモディが死んだ夜。享年35歳。
実際に、あまりにも早すぎる死が友人たちに大きなショックを与えたことは想像に難くありません。

スーティンも無二の友を失った悲しみから、パリを離れ、南仏で制作に没頭します。
うねるような筆触が画面全体をゆがめた風景画には” Maudit =呪われた “という形容詞が最も相応しい気がします。

モディの死後2日目、愛する人を失い、錯乱状態となったジャンヌはお腹にいた第二子を道連れに5階から身を投げました。
当初、ジャンヌの両親はこの痛ましい現実を受け入れられず、モディとは別の墓地に埋葬。
現在はペール・ラシェーズ墓地で一緒に眠っています。

画学生だった彼女は藤田のモデルをつとめたことがあります。
デフォルメされていますが、豊かな褐色の髪、強い意志を感じさせる瞳などがしっかりと描き出されていますね。

モディが描き残した藤田とスーティンの肖像は3人の親交を物語っています。

藤田はこのデッサンをとても気に入り、自ら余白部に「モディリアーニが描いた私の肖像」と書き添えました。
1950年にパリに戻って来たとき「私が死んだら、モディリアーニのそばに埋めてください」と言ったほど、その友情は厚いものでした。

現ベラルーシの貧しいユダヤ人家庭出身のスーティンの才能を早くから見出していたのが、他でもないモディだったそう。
その後、大コレクターのアルバート・C・バーンズがスーティンの作品を多数買い上げ、急激な成功を手にしますが、晩年はまた極貧に。
ナチス占領下にはフランス各地を転々とする生活を強いられ、1943年に亡くなりました。

藤田カタログ・レゾネの著者、シルヴィー・ビュイッソン氏は『FOUJITA inédits』の中で、藤田がモディリアーニやスーティンのことを “芸術の殉教者” であり、”聖人化に値する”と感じていたと記しています。
その思いはとりわけ、生前正当に売れた絵がほとんどなかったモディリアーニに向けられていたのかも知れません。
彼に対する強い哀悼が、映画『モンパルナスの灯』への惜しみない協力となったのではないでしょうか。


藤田が亡くなってからちょうど半世紀の本年、日仏両国で大規模な回顧展が開催されています。
東京都美術館は会期が終了しましたが、10月19日より京都国立近代美術館に巡回。
関西方面の方はぜひお出掛けください。

長年に渡り藤田作品を扱ってきた弊社でも、ただいま直営ギャラリーにて特集展示をおこなっています。
モンパルナスの素描など、パリへの深い愛情が感じられる作品も多数ご用意。
皆さまのご来廊を心よりお待ちしております。

アトリエ・ブランカ軽井沢展示
アトリエ・ブランカ軽井沢
ギャルリー・アルマナック吉祥寺展示
ギャルリー・アルマナック吉祥寺

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(K・T)