ボードレール『悪の華』
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フランスの詩人、シャルル・ボードレール(1821-1867)による、詩人の誕生から死に至る魂の遍歴が描かれた韻文詩集『悪の華』(初版:1857年)。
発刊当時より大きな反響をもって迎えられ、ここから近代詩が始まったと言われています。
その影響は世界中におよび、日本でも多数の翻訳がなされています。
100人いれば100通りの翻訳が生まれると言われますが、詩の場合は訳者による差異がさらに大きくなるような気がします。
きわめて研ぎ澄まされた言の葉のひとかたまり。
それを別の言語であらたに構成していくという仕事は、二つの言語を自在にあやつるプロフェッショナルにとっても相当骨の折れるものではないでしょうか。
『悪の華』の翻訳は、自らも詩人として名を馳せた堀口大學や福永武彦、安藤元雄など錚々たるメンバーが取り組んでいます。
それぞれの訳を比較してみるのも興味深いですね!
美術評論家としても活躍したボードレールは「Les phares(燈台)」という詩を本書に収録。
この詩にはルーベンス、ダ・ヴィンチ、レンブラント、ミケランジェロ、ピュジェ、ヴァトー、ゴヤ、ドラクロワの名が登場しますが、ダ・ヴィンチの部分を引用してみます。
Léonard de Vinci, miroir profond et sombre,
Où des anges charmants, avec un doux souris
Tout chargé de mystère, apparaissent à l’ombre
Des glaciers et des pins qui ferment leur pays,
(拙訳)
レオナルド・ダ・ヴィンチ、深く暗い鏡
そこには魅力的な天使たちが現われる
神秘に満ちた甘美な微笑みをうかべ
彼らの国を閉ざす氷河と森の影に
鏡、天使、微笑み、氷河、森、、、まさにダ・ヴィンチの本質とも言える単語が並んでいます。
美術に造詣の深かったボードレールによる美しいオマージュ、みなさまはどう感じますか?
本国フランスでは ‘絵画による翻訳’ とも ‘オマージュ’ とも呼べる、さまざまな芸術家による挿画本『悪の華』が刊行されています。
1887~1888年に原書の空白箇所やページに直接スケッチをしたのが彫刻家オーギュスト・ロダン。
ロダンの代表作である<考える人>やそのほかの<地獄の門>のモチーフが既に表れているのだとか。
この原書は現在、パリのロダン美術館が所蔵。
また、ロダンが没した翌年の1918年にこれらのデッサンを複製した挿画本が200部限定で出版されました。
ロダン以降、ルドン、ルオー(2冊も!)、マティスなどの巨匠たちが、この詩集のために版画作品を制作。
オディロン・ルドン Henri Floury, 1923 (ルドンの挿画は1890年に完成) 銅版画9点 100部限定 |
ジョルジュ・ルオー(1) L’ETOILE FILANTE, 1966 (ルオーの挿画は1927年に完成) エッチング、アクアチント14点 425部限定 |
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ジョルジュ・ルオー(2) R. Lacourière, 1936-38 カラーアクアチント12点 250部限定 |
アンリ・マティス La Bibliotheque Francaise, 1947 エッチング1点 フォトリトグラフ33点 320部限定 |
この他にもレオノール・フィニ、ヴァン・ドンゲン、写真家アンリ=カルティエ・ブレッソンら、多くのアーティストがこの詩集に魅せられて、作品を提供しています。
ボードレールが芸術界に与えた影響の大きさにあらためて驚嘆しました。
ルドンはポーラ美術館(開催中~12月2日)にて
ルオーはパナソニック汐留ミュージアム(9月29日~12月9日)にての回顧展も要注目です!
読書の秋、そして芸術の秋を愉しんでいきたいですね。
(K・T)