【5月企画展開催予告】ギャルリー・アルマナック吉祥寺「パリ、石版画の黄金期展~ミュシャからシャガールまで~」

シャガール「四季」(1974年 リトグラフ) 額:106×76cm

こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。 

今年もゴールデンウィークまで残りわずか。
海外旅行や遠方の行楽地など連休のお出かけのご計画はもうお済みですか?
あるいは、特に遠出はせず近くの映画館にでも、とお考えの方もいるかもしれません。

いずれにしましても私たちの日々の行動意欲というものは、街を歩けば、電車に乗れば、新聞を広げれば、あるいはテレビをつければ目に飛び込んでくる、種々雑多な宣伝広告の情報に強く影響されて形成されています。

「そうだ、今日の夕飯はお肉にしよう」、「次のお休みはハワイの海でゆっくり過ごそう」、「今度のお給料で新しい靴を買おう」などといった日々の何気ない欲求が、身近な生活で目にする広告やポスターによって引き起こされているのです。

こうした宣伝広告あるいはポスターは、いつごろから私たちにとって親しみのある存在となったのでしょうか。


18世紀頃の広告

物を宣伝するための”広告”という媒体のルーツは、何と紀元前3000年に遡るそうですが、いわゆる宣伝広告が巷に登場するのは資本主義経済が活性化する18世紀頃から。
しかし、雑誌や新聞の空きスペースに掲載される商品宣伝や求人広告が主流のため、サイズも小さく情報も文字ばかり。
芸術とは無縁の世界でした。 


 
ところが、1800年代初頭。
印刷業界にもたらされたある画期的革命により、広告のイメージが刷新されます。
“クロモリトグラフィ”と呼ばれるその革命は、1798年に開発された当時最新の版画技法リトグラフ(石版画)を改良し作られた多色刷り。
さらに1860年代になると、画家兼版画家のジュール・シェレが、たった3枚の色版から7種類の色を実現する生産性の高い刷りに成功。
陽気で快活な女性が描かれた色鮮やかなポスターが街中を席巻すると、人々はポスター広告に「美しさ」を発見したのです。

<シェレの手がけた広告ポスター>



19世紀後半から世紀末にかけては、ロートレックやスタンラン、ボナール、ヴュイヤールなどが描いたキャッチ―でお洒落な商業ポスターが次々と登場。
ポスターは一気に「芸術」の域へと高まりました。



また、言わずと知れたチェコ出身の画家でアール・ヌーヴォー芸術を代表する巨匠ミュシャが大流行したのもこの頃。
華やかなポスターに彩られたパリの街角はまるでアートギャラリーのようだったことでしょう。


しかし、流行衰退は世の常。
装飾華美なアール・ヌーヴォー芸術は1900年を過ぎると人気が陰り、代わって新しい世紀のダイナミズムを感じる前衛的な美術様式が誕生。
フォービズムやキュビスム、ダダイズムなど新興の美術運動に加えて、機械化により産業社会が発展すると、装飾的なポスターはおのずと不釣り合いなものになってしまったのです。

さらに、1911年に第一次世界大戦が勃発すると、ポスターは人々の愛国心を鼓舞し、戦争協力へと扇動するプロパガンダの役割を担うようになります。
この時期に王政を倒し社会主義政権へと移行した激動のロシアも、国民の意識を操るため、インパクトのあるポスターを効果的に用いました。


 
そして、第一次世界大戦後。
加速する機械化により大量生産・大量消費社会が到来すると、人々はその精神に合致した合理的で機能的なものを求め始めます。
工業や産業と芸術を融合させた造形美を追求する「グラフィックデザイン」という分野の誕生もこの流行を後押し。
ドイツの美術学校バウハウスやオランダの美術雑誌「デ・ステイル」はこの産業芸術という新しい試みの普及に大いに貢献しました。
やがて人々は、直線や幾何学模様の単純なモチーフの組み合わせに美を見出し、その効率的で無駄の少ないデザインは「アール・デコ」と定義されるようになりました。
装飾的なアール・ヌーヴォーの流行からたった20年ほど。
驚くほど劇的なデザインの革命ですね。


その後1930年代に入り、第二次世界大戦に向けて再び軍事色が強まったヨーロッパ一帯では、国民の士気を高めるコミュニケーションツールとしてまたしてもポスターの役割が重要になります。
この頃には機械化により印刷技術もぐんと向上し、リトグラフに勝る効率的な「オフセット印刷」が誕生。
さらに戦後は、テレビやラジオの普及により、広告媒体の競争化が始まると、工数を要するリトグラフポスターの需要は激減していきました。

しかし、リトグラフポスターが滅びてしまったわけではありません。
マティス、ピカソ、シャガールを始めとするリトグラフを愛した20世紀の偉大な芸術家たちは、進化する最新の印刷技術とは一線を置き、”芸術”としてのポスターにこだわり続けたのです。

ピカソ「コート・ダジュール」(1962年 リトグラフ) 額:120×87cm マティス「ポンパドール」(1951年 リトグラフ) 額:104×86cm

このようにして、19世紀末に興隆した芸術的なリトグラフポスターは20世紀に引き継がれ、そののち近代から現代にかけての版画芸術、特にカラー・リトグラフという分野を開拓していくこととなりました。

デュフィ「ドーヴィルのパドック」(1960年頃 リトグラフ) 額:83×121cm
ミロ「マーグ画廊の新作展・Ⅱ」(1971年 リトグラフ) 額:64×74cm
マティス「長い髪のヴィーナス」(1950年 リトグラフ) 額:61×73cm ユトリロ「テルトル・ホテル」(1947年 リトグラフ) 額:41×45cm

来月のギャルリー・アルマナック吉祥寺では、ポスター芸術の誕生に起因する19世紀末~現代の版画芸術にフォーカス。
シャンプノワやムルロなど由緒あるパリの名門リトグラフ工房で制作された石版画を始め、ミュシャ、マティス、デュフィ、ピカソ、ミロ、ユトリロ、シャガールらが手がけたカラー・リトグラフの黄金期を展望できる貴重な作品の数々を展示・販売いたします。

お部屋のインテリアなどにもお求めやすい版画作品も多数ご用意予定。
来月の展示をどうぞお楽しみに。
会期予定:5/3(水)~5/31(水)

(R・K)