日本製シンギングバードのご紹介


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昨年の3月に開館後初となるリニュールを行なった、東京を代表する観光名所の一つ、江戸東京博物館。(通称・江戸博)
改修後はさらに、模型や体験型の展示物を積極的に加え、楽しみながら学べる充実した施設となっています。
先日訪れた際も、学生や外国人観光客をはじめ大賑わい。
特に、からくりや仕掛けのある動く模型は、その精巧さとエンターテイメント性に、多くの人が立ち止まり目を輝かせていて鑑賞していました。

こうした完成度の高い細かな細工技術は、日本人が世界に誇る技巧として、古くから芸術工芸品や機械技術の分野で様々な発明品を生み出してきました。
中でも著名な貢献者の一人が、江戸時代に活躍した田中久重(1799-1881)。
またの名を「からくり儀右衛門」。

田中久重

 

べっこう細工師の長男として生まれた田中久重は、父親譲りの手先の器用さで幼少よりその才能を発揮。
仕掛けのある硯箱や、鳥かごなどの娯楽的な作品から、自動で油を供給する灯明「無尽灯」や機械式和時計「万年自鳴鐘」など、近代科学史に残る超画期的な作品を世に送り出した天才技術者です。

日本の伝統的な在来技術と鎖国中も一部流入していた欧米の科学技術における知識や情報を、貪欲に吸収した田中の日本人としての叡智と心意気が見事に体現されています。

からくりほととぎす 無尽灯 万年自鳴鐘

本日ご紹介する日本製「シンギングバード」も、田中が創作した鳥かご「からくりほととぎす」と同じ仕掛けの原理が用いられた作品。
残念ながら工房は不詳ですが、1920年頃に制作された作品で、ぜんまいを巻くと小鳥が頭や体を動かしながら美しいさえずりを今でも聞かせてくれます。

典型的な構造

 

その興味深い仕組みとは?
基本的な構造は、ぜんまいが巻き上げられると、台座の下に組み込まれたふいごと呼ばれる送風装置が作動し、その風を送られた笛が音を出すというもの。
さらに本作では、笛の中に仕込まれた針金のピストン運動により鳴き声の高低や抑揚を調整。
また、鳥の動きの方向や微妙な動作を制御するカム類が働きあうことで、よりリアルで高度な表現が追求されています。
これらの緻密な内部構造により、約100年前とは思えぬほど豊かで繊細な音色を奏でているのです。

田中久重が、西洋の技術をどこまで参考にして「からくりほととぎす」を制作したかは不明ですが、世界で最初のシンギングバードは1752年、スイスの時計職人ジャケ・ドローの手により誕生しました。
以降、スイスのリュージュ社や、ドイツのESCHLE社やKarl Griesbaum社、フランスのBONTEMS社などシンギングバードは主にヨーロッパを中心に花開いた工芸品のため、本作のような日本製品は大変稀少。

しかし、裏側に施された「MADE IN JAPAN」の力強い刻印と、シンギングバードの鳥種としては珍しい赤い尾長鳥に、日本の精巧な細密技術に対する制作者のゆるぎない誇りと情熱がみなぎっているようで、100年前に生きた日本の職人たちの気概がひしひしと伝わる素晴らしい工芸品です。

リュージュ社製シンギングバード

当店では現在、日本製シンギングバードの他、1970年代制作のスイス・リュージュ社の作品もお取り扱い。
鮮烈な朱色が映える個性的な日本製と異なり、同社は淡く優しい色合いがエレガントな小鳥たちが特徴的ですね。 

彼らの響かせる歌声は、是非ギャルリー・アルマナック吉祥寺にて聞いてみてください。
まるで本物の鳥のような愛らしい動きと歌声に、あなたもきっと魅了されてしまうはずです。

当店所蔵の他シンギングバードはこちら

(R・K)