画家・藤田嗣治が眠る安息の地フジタ・チャペル


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ブログをお読みいただきありがとうございます。

芸術の秋。
ドイツルネサンスを代表する芸術家クラーナハや、シュルレアリスムの鬼才画家サルバドール・ダリ、ゴッホにゴーギャン、モネやドガなど・・・
この秋、東京周辺の美術館では世界の巨匠芸術家を特集した大規模な展覧会が目白押し。
見切れないほど多くの作品が世界中から集結しています。

府中市美術館開催の「生誕130年記念 藤田嗣治展」も、今秋必見スポットの一つ。
国内外に所蔵されている一級の優品の中から、初期から晩年の画業を隈なく網羅した約110点を一堂に鑑賞できる豪華な企画展です。

カタログレゾネや書籍などでも目にしたことのない作品も多く、改めて藤田嗣治という人物の偉業に感服させられる内容でした。

その精神を直接表現した場が、藤田最晩年の傑作、通称フジタ・チャペル。
藤田自らが建設に関わった礼拝堂で、今でもフランスの地方都市ランスにひっそりと佇んでいます。


この運命を決定づけたのは、ボトルの金属キャップのデザイン制作を藤田に依頼したシャンパンメゾン「マム」社の社長、ルネ・ラルーとの出会い。
藤田は友人のため、甘く香るような一房のバラを描きました。

以降、熱心に藤田を支援したラルー夫妻は、藤田がカトリック改宗への思いを抱いていること、さらに洗礼を受けた折には礼拝堂装飾に携わりたいという藤田の夢を知り、全面的に協力していきます。
その後、礼拝堂建設に適した場所を探し求めた藤田とラルーは、マム社のすぐ隣の敷地に建設を決定。
ラルーはその土地を自社の敷地として買い、藤田に創作の場を与えました。
藤田は自身の希望の礼拝堂ができるよう、設計の段階から徹底して携わり、内部の装飾はフレスコ画の特性上、わずか90日間という驚異的な速さで描きあげました。
さて、いったいどんな空間に出来上がったのでしょう。

教会入口


まず礼拝堂の扉をくぐった先。
入口背面に描かれたのは、ゴルゴタの丘で磔刑に処されるキリスト像。

その様子をひざまずき見つめる藤田とラルーも、右端に描き入れられています。



主祭壇となる正面奥の壁龕には、幼いキリストを膝に抱える聖母像。
キリストの磔刑像という男性的な主題と対照的に、聖母の周囲には多くの修道女が従えられており、女性的な場面になるよう意識して描かれたとか。
柔らかみのある丸い壁龕の形状により、さらに女性的な印象を受けますね。
内部の壁面に余すところなくぐるりと囲むように描かれたのは、「最後の晩餐」、「キリストの誕生」、「七つの大罪」、「キリストの復活」など聖書に依拠した主題の数々。
どの主題もドラマティックな内容なのですが、フレスコ独特の淡い色合いが静謐さと抑制された雰囲気を醸し出し、最晩年の藤田の静かな精神性とよく調和しているようです。

キリストの誕生

 

控えめに光が差しこむステンドグラスたち。
親交があったメキシコ人画家ディエゴ・リベラからの強い影響を受け制作されたといわれる戦争の悲惨さを訴えたものから、ガラスのつなぎ目によって象や魚、猫の姿にも見える、藤田らしい遊びが隠されているものまで一枚一枚見応えがあります。

ちなみに、このステンドグラスは、シャガールが携わったランス大聖堂のステンドグラスと同じ職人シャルル・マルクにより制作されました。
80歳を迎えた老齢の藤田が全身全霊を捧げ、1966年10月に完成したこじんまりとしたこの礼拝堂。

ゴシック教会のような荘厳や重厚、崇高といった言葉はどこか似つかわしくなく、素朴で親しみがあり、けれども奥深い慈悲に包まれているようなこの場所は、藤田の魂が眠る「家」のような感覚を訪れる者に与える安らぎに満ちた空間でした。

<お知らせ>
藤田嗣治の生誕130年を記念した特別展、「藤田嗣治 遺作展」を11/1(火)~12/30(金)までギャルリー・アルマナック吉祥寺にて開催予定。
画家没後、アトリエに遺された水彩、墨彩、素描、版画の秀作を中心に、稀少作品を多数展示いたします。
皆様のお越しをお待ちしております。


(R・K)