ヘレンド「コーヒーセット:ロスチャイルドバード」のご紹介

制作年:1900年代中頃
サイズ:(cm)
カップH4.8×W8.5×D6.5
ソーサーH2.5×W11.5×D11.5
ポットH16.5×W13×9
各底部に窯印

こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

先週、ジョージ王子とシャーロット王女を連れて、初めてカナダを外遊したウイリアム王子一家の様子が話題になりましたね。
官邸の庭で行われた園遊会では、あどけない仕草と表情で風船やシャボン玉で遊んだり、大道芸人の曲芸に見入る二人の愛らしい姿が印象的でした。

さて、本日はこのニュースにからめて、ある有名一族の園遊会に関係する作品をご紹介しましょう。
主役の有名一族とは、金融業により18世紀以降ヨーロッパを中心に巨富を築いた門閥ロスチャイルド家。

マイアー・アムシェル・ロスチャイルド

今や世界的に知られた大財閥の一つですが、彼らはいったい何者でしょうか。 

繁栄の基礎を固めた人物は、信仰心の厚いユダヤ人の血を引く商人の家系に生まれたマイアー・アムシェル・ロスチャイルド(1744-1812年)。
現在のドイツ・フランクフルトで育ち、父親は彼にユダヤ教指導者としての将来を望んでいたため、特別な養成学校へと進学。
ここで習得した古代史や語学を通じて芽生えた「古銭」への興味こそ、のちのロスチャイルド家の栄華につながる要因でした。
その後、両親の急逝に伴い退学を余儀なくされたマイアーですが、親族の紹介により地方の銀行へ奉公するチャンスをつかみます。
そこで経済のルールや金融取引全般を学び、見習いとして修業を積んだのち、学生時代より研究・蒐集していた古銭を販売する古銭商として独立しました。

しかし、貧しいユダヤ人が居住する地区で一般大衆相手には商売が成り立つはずもなく、マイアーは上流階級の富裕層に的を絞り、様々なアイデアで次々と顧客を獲得していきます。

“成功者には努力や才能のみならず、「運」も必要である”とは、よく聞く文句。
マイアーもまさに時々の「幸運」に助けられた人物です。
古銭という共通の趣味から、時の領主であるヘッセン家のヴィルヘルム公と知己を得、その後、銀行勤務の経験を生かして宮廷の御用商人となり、両替商へ転身。
さらに高官たちの財政管理や資金調達の一切を任せられるまでに、信頼を勝ち得ていきました。

ヴィルヘルム公

そして、ロスチャイルド家は1789年に正式な金融機関として承認され、更なる販路を拡大。
成長した5人の息子にドイツ・イギリス・フランス・オーストリア・イタリア各国に開業した支店を任せ、金融面における盤石な支配体制をヨーロッパ全域に整えていきました。

長男 次男 三男 四男 五男

さて、話を本日の作品に戻しましょう。
1860年のある日、ウィーンにあったロスチャイルド家邸宅の庭で催された園遊会でのこと。
一族の男爵夫人は身に着けていたパールのネックレスを紛失してしまいます。
悲しみに暮れた男爵夫人でしたが数日後、庭師が木の枝に引っかかったネックレスで遊ぶ鳥を発見。
再びネックレスが手元に戻ったことに喜んだ男爵夫人は、この稀有な逸話に着想を得たコーヒーセットをヘレンドに注文したのです。
愛らしい鳥とエレガントなネックレスというユニークな組み合わせのデザインは、熟練した絵付け職人による高い技術ともに、その隠された物語が語り伝えられ、「ロスチャイルドバード」コレクションとして、絶大な人気を博しました。

本作はさらに、日本の青海波のような青い縁が描かれている点も特徴的。
リズミカルに並ぶ波模様が作品全体にアクセントとエキゾチックな雰囲気をもたらしており、「インドの華」コレクションのように、東洋のモティーフを積極的に融合させたヘレンドらしい表現です。

木の枝にかけられたパールのネックレス

 

この「ロスチャイルドバード」コレクション注文にあたり、指名を受けたヘレンドですが、その創業はマイセンやセーブルなど他国の陶磁器ブランドに比べて遅く1826年のこと。
小さな陶器工場として生産を開始した後、1839年にモール・フィッシャーが経営に携わるようになり、テーブルウェアに専念。
またデザインの開発や販路の開拓に尽力することで徐々に力をつけていきます。

クイーンヴィクトリア

その後、ターニングポイントとなったのが、1851年にロンドンで開催された万国博覧会への出品でした。
優雅でノーブルなヘレンドの作品に感銘を受けたヴィクトリア女王は、ウインザー城での晩餐会用のディナーセットをその場で注文。
それを皮切りに、王侯貴族からの注文が続々と舞い込むことになり、ヨーロッパを誇る名窯ヘレンドの黄金時代が幕を開けました。

ロスチャイルド家が、雅やかな気品と華やぎが魅力のヘレンドに「ロスチャイルドバード」コレクションの制作を任せたのも納得ですね。
耳をすませば、ネックレスと戯れる小鳥たちの話し声が聞こえてきそうな本日の作品。
今日のティータイムにちょっとした遊び心を添えてみませんか?

(R・K)