挿画本『葡萄酒、花、炎』のご紹介

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“………..(中抜粋)…………
Burnt spices flash, and burnt wine hisses,
The breathing flame‘s mouth curls and kisses
The small dried rows of frankincense;
All round the sad red blossoms smoulder,
Flowers coloured like the fire, but colder,
In sign of sweet things taken hence;……………”

“………..(中抜粋)……….
輝くような香料の閃き、燃えるような葡萄酒の開栓音
をまとった息遣いの唇が巻きつき口づけをする
芳香を放つ乳香の、小さく乾いた樹脂香たち
火をつけると一面に悲哀に満ちた赤いが燻ぶる
花々のように色づき、されど無情さを増し、
甘美な物事が消え去る証として……………”
(詩集「詩とバラード第1集」(1866年)収録の「Illicet」より)

ヴィクトリア朝時代のイギリスに生きたデカダンス派の詩人、アルジャーノン・チャールズ・スウィンバーンが詠んだ詩の一節です。
スウィンバーンは官能的な描写や巧みな韻律で知られ、道徳に左右されない美を説く唯美主義の先駆的存在でした。

詩中には、葡萄酒や炎、火、花々などの言葉が折り重なり、耽美的な世界観が表現されていますね。
本日は、そんなスウィンバーンの詩のように美しいタイトルを持つ、稀少な挿画本をご紹介しましょう。

出版元:ベルナール・クライン出版
出版年:1952年
技法:リトグラフ(エッチング含)
限定部数:305部

東京国立近代美術館も所蔵するこちらの挿画本『葡萄酒、花、炎』は、ワインにまつわるテキストに当代の人気画家が描いた挿絵版画を収録した一冊。

名を連ねたのは藤田嗣治はじめ、ジャン・コクトー、ラウル・デュフィ、モーリス・ユトリロ、ジャック・ヴィヨン、モイズ・キスリング、モーリス・ド・ヴラマンク、アンドレ・ドランといった錚々たるエコール・ド・パリの芸術家12名。
各々が手がけたワインをテーマにした挿絵が華々しく競演した夢の挿画本です。

本作は、限定305部のうち229番目のエディション。
最初の100部には、戸外の饗宴を軽やかに描いた藤田の素描を元にしたエッチング1点や、スイット版も収録されており、いずれも美術愛好家垂涎の逸品となったことでしょう。

収録挿画の一部をご紹介します。


 
ジャック・ヴィヨン(マルセル・デュシャンの兄)による扉絵

ようやく迎えた収穫の様子でしょうか。
四角い画面構成になりがちなキュビスムの画風に、葡萄の丸い実や車輪で柔らかさを添えているようですね。


デュフィによる挿絵

葡萄の実を入れたたくさんの樽を積んだ台車。
これから美味しいワインに仕上げていきます。


アンドレ・ドランによる挿絵

古代ギリシャ神話に登場する酒神ディオニソス(ローマ名:バッカス)の航海の様子を描いた躍動感ある作品。


ジャン・コクトーによる挿絵2点
軽やかな線描に付け加えたセリフが何ともお洒落。


モイズ・キスリングの挿絵

 明るい戸外での宴の様子。
群像に交じって描かれた後方の花々が、作品に華やかさをプラスしています。


モーリス・ユトリロによる挿絵

テーブルにどんと置かれたワインボトルとフランス国旗が、妙に存在感を感じさせます。


そして、こちらが藤田嗣治による作品(↓)
ワインを楽しむ晩餐の様子でしょうか。
真っ赤なカーテンとマダムの青いドレスの色遣いが秀逸。
そして背部の額絵や銅像なども描かれ細部描写に長けた藤田らしい挿絵ですね。

『葡萄酒、花、炎』にはこれら一流画家の描いた挿絵のみならず、マックス・ジャコブやコレットなど著名な作家がワインへの賛歌を捧げる文章も寄稿され、隅から隅までワインの魅力を楽しめる一冊へと仕上がりました。

現在、ギャルリー・アルマナック吉祥寺ではこちらの完本をお取り扱いしております。
ご興味のある方はお電話(0422-27-1915)またはこちらよりお問い合わせくださいませ。

(R・K)