西洋美術にみる薊(アザミ)モチーフ


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草木や花々が瑞々しく息吹く春。この時期から秋にかけて開花するのが、薊(アザミ)。
球形の花冠と萼から四方八方に生える棘が特徴的なアザミは、世界に250種類以上、日本の原生種は60種類以上も存在すると言われています。

スコットランド紋章バッジ

数々の逸話が残るのもアザミの魅力の一つ。 

中世の時代、ヴァイキング侵入に苦しんだスコットランドでは、敵軍の奇襲時にアザミの棘や茨が敵兵の足を刺し、大声を上げたことで、事前に奇襲を察知でき、多くのスコットランド兵を救ったことから、国花に制定されているほど神聖な植物なんだとか。


また、「独立」や「抵抗」という花言葉を持つアザミは、1870年の普仏戦争でプロイセンに敗北し、
領土の一部を割譲されたフランス北東部ロレーヌ地方においても、祖国を守る愛国心や勇気のシンボルとして愛されてきました。

そのロレーヌ地方の中でも有名なのが、ガラス工芸の一大産地でもある風光明媚なナンシー村。
自然の多い場所柄、植物園芸や品種改良が盛んになった19世紀末からは、
エミール・ガレやドーム兄弟などがアザミをモチーフにした作品に祖国復帰の思いを託しました。

その中の数点が、先日まで東京都庭園美術館にて開催された「ガレの庭」展で出品されていました。(↓)
特に右作品は、ガレがグランプリを獲得した1900年パリ万博における展示品の一つで、
「穀物倉」と名付けた陳列ケースに堂々並んだ力作。
その4年後に58歳の若さで亡くなる晩年のガレが魂と情熱を込めた華々しい舞台だったことでしょう。

アザミにロレーヌ十字文花瓶 アザミ文花瓶
1900年パリ万博「穀物倉」の様子(矢印がアザミ文花瓶)

 
また、以下はアザミが描かれた当店取扱の品々です。
同じ主題といえども皆それぞれに表現が異なる点が面白いですね。


アンフォラ「アザミ文アール・ヌーヴォー花瓶」

1892年創業のアンフォラ磁器工場。(チェコ)
植物を写実的に描いたデザインや、大胆な造形が特徴で知られ、
本作ではアザミの生命力を力強く表しています。


アルベール・マリオネ「アザミ文トレイ」

花弁を広げる前のアザミ、でしょうか。
丸く閉じたつぼみやギザギザとした葉でさりげなくトレイを形作っています。


ドーム兄弟「アザミ文花瓶」

エナメル彩で写実的に描いた花部と
酸化腐食彫りによるシルエットの立体感のみで表現した葉茎により
シンプルながら独特の存在感を放つ作品。


ドーム兄弟「アザミ文グラス」

まるでタンポポの綿毛のような繊細なアザミの表現と
柔らかに差し込む淡いガラスの色合いが美しい逸品。


バーカー「野アザミの妖精」

妖精画家として知られるシシリー・メアリー・バーカーももちろん「アザミの妖精」を描いています。ツンツン頭にとんがり剣を持った男の子が愛らしいですね。 

聖母マリアがキリスト磔刑の十字架から抜いた釘を埋めた場所からアザミが生えてきたなど、特に西洋美術では特別視されてきたアザミ。
モチーフにした作品には、単なる植物描写にとどまらない作家の秘めた思いが隠されているのかもしれません。

(R・K)