2月「長谷川潔・浜口陽三 2人展」が始まりました


お待たせいたしました。
本日より今月の企画展「長谷川潔・浜口陽三 2人展」がスタート。

藤田嗣治、竹久夢二に続いて当店では日本人芸術家の特集が続いておりますが、活躍した分野や国は違えどもそれぞれの個性で一時代を築いた巨匠たち。

今回は、長谷川潔の稀少な油彩作品に加えて、長谷川と浜口が制作した数々の銅版画作品を始め、京都天龍寺法堂の天井画「雲龍図」などでも知られる日本画界の重鎮、加山又造の作品も出品いたします。

彼らが魅了されたのが、非常に特殊な技術を要する銅版画「メゾチント」(仏:マニエール・ノワール)。
版画だからこそ表現できるその独特の世界はどのように創作するのでしょう。

浜口陽三「two pairs」

「メゾチント」とは、イタリア語でメゾ(ハーフ・中間)とチント(トーン・階調)=つまり「中間調」の意味。
光と闇の境界線が曖昧になり、ぼぉっと浮かび上がるような幻想性が作品に表出されます。
何だか、描く対象物よりもむしろ暗い背景にこそ、画家の本心が隠されているような不思議な世界観ですね。
作家によって、複雑に制作工程は分かれますが、ここではメゾチントのしくみを大まかにご紹介しましょう。

1、下地作り(目立て)
メゾチントの真髄とも言える重要な工程。
硬い金属ヘラのような道具(ベルソー)で銅版全体に規則的な傷を刻んでいきます。
縦に横に斜めにと何度も繰り返す気が遠くなるような作業ですが、この工程が作品の出来を左右するため、手は抜けません。


版全面に目立てを施したら、ようやく本題の描画・削り作業に入ります。


2、描画
下絵を版に転写し鉛筆で大まかな線を描いたら、スクレーパーと呼ばれる道具で版の微小な凹凸をモチーフに合わせ削っていきます。
ギザギザの溝を深く残せばそこにインクが多くたまり、より黒い画面に。
ギザギザを少し削り浅くすればインクの絡まる量が減り、黒は薄くなり。
さらにギザギザを取り除き版を滑らかにすればインクがのらない白の表現が可能です。

続いて、刷りの作業。


3、刷り
ローラーで版にインクを詰めたら、柔らかい布などを用いて余分なインクを除去。
あらかじめ水で湿らせ柔らかくした紙を版の上にのせ、プレス機にかけます。
ビロードのような質感とともに明暗の調子が美しいメゾチント版画の完成です。

長谷川潔「裸婦」


 

ところで、版の凹みに載せるインクの”黒”。
メゾチントに限らず他の版画でも必ず用いるインクですが、長谷川潔はメゾチント作品の大部分を支配するこの黒色にも徹底的にこだわり、分析研究を重ね独自で調合したインクのみを用いました。 

先日のブログで、江戸時代の色見本帳をご紹介しましたが(詳しくはこちら)、古来より日本人の日常生活に幅広くあふれていた色相。
単純に「黒色」と言うだけでも、”漆黒”、”黒紅”、”紫黒”、”蝋色”、”烏羽色”、”鉄黒”、”濡羽色”、”黒檀”、”憲法黒茶”、”暗黒色”など黒の諧調には約20の和色があるのをご存知ですか?

漆黒 黒紅 紫黒 蝋色 烏羽色 暗黒色

日本人である長谷川や浜口が、精神性の深い黒に魅了されたのもうなずけますね。
黒を愛でた天才芸術家たちの深遠な世界が堪能できる企画展。
皆様のお越しを心よりお待ちしております。
会期は2/28(日)までです。

(R・K)