スタンランの商業ポスターにみる飲用牛乳の歴史

スタンラン「ヴァンジャンヌの殺菌牛乳」

 

皆様こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

突然ですが、これは何を統計した数字だと思いますか? 
“35.8リットル”

答えは、日本人一人当たりの年間牛乳消費量(日刊酪農乳業2006年調査)。
これは他の国々と比べると非常に少なく、フィンランドでは年間一人当たり183.9リットルもの牛乳が摂取されています。
今ではカルシウムなど栄養素を多く含んだ健康的な飲み物として当たり前のように摂取する乳製品の一つですが、手軽に牛乳が飲めるようになったのは、ヨーロッパでも約100年前頃のこと。

何故なら、原乳そのものは搾乳後の腐敗が速く様々な細菌の温床となるため。
実際、19世末までは牛乳を飲んで死亡する人も少なくありませんでした。
牧場で搾りたての牛乳を飲む以外に、近所の食料品店で安全な牛乳を買うためには細菌処理が不可欠だったのです。

ルイ・パスツール

この問題を解決した功績で知られる人物こそ、フランス人細菌学者ルイ・パスツール(1822-1895)。
彼は、多くの研究結果からワインや牛乳の腐敗防止には低温での殺菌処理が有効であることを発表。
この発見により、低温殺菌された牛乳が気軽に食卓で楽しめる加工食品となったのです。

さらに、この時代。
時間が経って硬くなったパンを温かいカフェ・オレに浸して柔らかして食べるスタイルが流行。
牛乳を入れて作るカフェ・オレの消費が高まったことで殺菌牛乳の需要も爆発的に増えました。
そして、さらに当時の人々の購入意欲に拍車をかけたのが視覚効果の高い商業広告でした。
こちらは、当時大人気のポスター画家スタンランにより制作された作品。
牛乳ブランドの宣伝ポスターです。
鮮やかなドレスを身に付けた女の子が飼い猫にやる牛乳を冷ます様子を描いた、スタンランの代表作の一つです。
作品ページはこちら

スタンラン「ヴァンジャンヌの殺菌牛乳」
創作活動中のスタンラン

テオフィル・アレクサンドル・スタンラン(1853-1923)は、強いメッセージ性と分かりやすさ、目を引く色彩や愛らしい図柄で一世を風靡した画家。
キャバレーやダンサーを主題にしたポスター作品の多いロートレックやシェレと比べてスタンラン作品に登場するのは猫や少女など親しみやすい題材。
くるんと巻いたボブカットの可愛らしい少女はスタンランの娘コレットです。 

現代の私たちが安全で安心な牛乳を美味しくいただける毎日の陰には偉大な細菌学者が地道な研究と実験の上成し遂げた人類の英知があったのですね。
弊社ではスタンランやロートレック、ミュシャなど、19世紀末に一世を風靡した商業ポスター作家の作品を多数お取り扱いしております。

スタンラン「第二回動物画家展」 ミュシャ「L.U.ゴーフル:プラリネ」

(R・K)