日本の伝統芸能”能”で観るギリシャ古典演劇「オデュッセイア」
こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。
先日ブログでご紹介したシャガールの挿画本「オデュッセイア」(詳しくはこちら)。
詩人ホメロスが紀元前8世紀頃に制作したと伝えられる叙事詩で、現在に至るまで長く愛され続ける古典文学の傑作です。
この伝統的な西洋文学を日本の伝統芸能”能”に仕立てたユニークな舞台が日本では一日限りで特別上演されました。
学生時代より日本の”能”を研究するギリシャ人演出家ミハイル・マルマリノス氏が、日本が誇る人間国宝の能楽師・梅若玄祥氏とタッグを組んだ本作。
「オデュッセイアと能には本質的な類似性が存在する」というマルマリノス氏。
一見、相容れぬように感じる2つの芸術には一体どのような結び付きがあるのでしょうか。
今回、オデュッセウスを元に創作された新作能「冥府行~ネキア~」が上演されたのは国立能楽堂。
住宅が密集する東京・千駄ヶ谷の一角にあるとは思えないほど広々とした空間で、門をくぐった入口までのアプローチには趣のある松が植えられ、これから鑑賞する舞台への期待が自ずと高まります。
トロヤ戦争が終わった後、故郷であるイタカ島へ戻るまでの、10年に及ぶオデュッセウスの帰還の物語を謳った本作は24編からなる長編の叙事詩。
今回の舞台では、その中から物語のターニングポイントとも言える、第11歌「ネキア」が取り上げられました。
(第11歌あらすじ)
海神ポセイドンの怒りを買ったことにより漂泊を続けるオデュッセウスは、魔女キルケーの助言により故郷へ戻るすべを尋ねるべく、預言者ティレシアスがいるネキア(冥府)の元へ渡る。冥府に着くと、トロヤ戦争で命を落とした戦友や亡き母親が次々と現れ、再会を果たす。最後に、預言者ティレシアスより苦難の末に帰国が叶うと聞きオデュッセウスは冥府を離れる・・・
今回、この舞台にために能本を書いた演出家の笠井賢一氏は、
「死者の魂を呼び寄せ、物語り舞うことでその魂を鎮めるという能の本質が、ネキアの世界と響き合い共有している」とこの2つの芸術の共通性を述べています。
今回のコラボレーション以外にも、ヴァイオリニストの葉加瀬太郎氏が奏でる演奏に合わせ、京都・下賀茂神社で能を披露したりと伝統を継承しながらも新しい型を創り発信し続ける人間国宝・梅若玄祥氏。
あるインタビュー記事で玄祥氏が語られていた
「流儀や家のかたちを守りながら、個々の役者が攻めていけば、能楽界はもっともっと面白くなる」という想いを強く深く感じる世界でした。
(R・K)