ケイト・グリーナウェイが手がけた、企業の宣伝カード


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ブログをお読みいただきありがとうございます。

1837年。ヴィクトリア女王(1819-1901)がイギリスの王位を継いだ記念の年です。
産業革命が成熟し、イギリスが栄華を誇った彼女の治世下では、「ヴィクトリアン様式」と呼ばれる生活様式が大流行しました。
女王の名で呼ばれたそのスタイルは、 ファッションから建築、家具まで人々の生活の多岐にわたり浸透。
社会現象ともなったその生活様式の特徴は、優美で繊細。豪華絢爛な華々しさとは違う「慎ましやか」な装飾性です。

そうしたヴィクトリアン様式の世界にぴったりと当てはまる表現で、当時大ブームを巻き起こした絵本画家がいました。
画家の名は、ケイト・グリーナウェイ(1846-1901)。
今回は、彼女が手がけたかわいらしい企業広告のカードをご紹介しましょう。
(グリーナウェイの絵本についてはこちら

何枚もの頁で構成される絵本やカレンダーと違い、商業目的の強い宣伝カードは、人目を引くインパクトや購買意欲を掻き立てる要素が必要不可欠。

さらに、人気画家が制作したことが一目で分かる個性も重要です。
グリーナウェイは、依頼されるカードの一枚一枚に工夫を凝らしたそうで、中にはとてもユーモラスなものもあります。

例えばこちら。
洗濯用品などを扱うC.Gilbert’s社が、でんぷん糊製品の宣伝に制作したカード(左)。

元々のデザインは、グリーナウェイが1881年に出版したマザーグースの挿絵(右)。桶を持つ女性の代わりに、C.Gilbert’s社のカードでは
この会社の製品を小脇に抱えています。

宣伝カード マザー・グースの挿絵

 

こちらは、裁縫関係の製品を扱うJ&P Coats社が、社のベストセラーである縫糸を宣伝したカード。

男女が食事する様子を描いた左のカードは、「ジャック・スプラット」というマザーグースの童謡からの引用。
左下にはこんな歌が載っています。


JACK SPRAT COULD EAT NO FAT
(ジャック・スプラットは脂肪が嫌い)

HIS WIFE COULD EAT NO LEAN
(彼の妻は赤身が嫌い)

BUT ON ONE SUBJECT BOTH AGREED,
(でも、ただ一つだけ彼ら二人が同意すること)

NO DIFFERENCE CAME BETWEEN, WHICH WAS, THAT
(ただ一つだけ二人に相違がないこと、それは)

COATS’S SIX CORD THREAD OF EVERY BRAND’S AHEAD.
(Coats社のSix cord糸が他のどの糸より勝っているということ!)

イギリスの国民的童謡の歌詞の後半をすり替えることで、企業の製品を宣伝するウィットに富んだカードになっています。
細かいところまで本当によく作り込まれていますよね。

19世紀後半のヴィクトリアン様式を体現した女流画家、ケイト・グリーナウェイが生涯手がけ大切にした小さな作品たち。
「カード」という10数cm四方の枠で繰り広げられる物語は、イギリス文学や古典とも結びつく深く創造的な世界で今も私たちを魅了し続けます。

(R・K)