シャガール挿画本「オデュッセイア」のご紹介


こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

先日、思いがけず出合ったこんなニュース記事。
「世界的古典”オデュッセイア”が”能”に!」

ヨーロッパ最古の詩人ホメロスが手がけた英雄冒険譚「オデュッセイア」を日本の伝統芸能である「能」の形式で舞台化するという異色のコラボレーション。
人間国宝である梅若玄祥氏が舞い、構成や演出をギリシャ人が担当し、西洋と東洋の伝統を継承しながら新しく進化させていくという、非常に斬新な試みです。

(その舞台の様子はこちら

さて、そのギリシャ古典の名作「オデュッセイア」。
当店で現在企画展を開催しているシャガールも生前に手がけた作品です。

(ドイツ語復刻版)
出版元 :DACO VERLAG
制作年 :1989年
技法 :グラノリト
制作部数 :2500部 

<オデュッセイアのあらすじ>
古代ギリシャとトロイアの戦いであるトロイア戦争に、ギリシャ軍として加勢した英雄オデュッセウス。
戦いと知恵の神であるアテナの比類なき守護を受けギリシャ軍を勝利に導きますが、
海を司る海神ポセイドンの怒りを買ったことで、帰途様々な苦難に遭遇します。

ようやく故郷のイタカ島へ帰還したのはトロイア戦争終了からおよそ10年後。
辛抱強く夫オデッュセウスの帰りを待ち続けていた妻ペネロペですが、
オデッュセウスはもう亡くなったと思い彼女に求婚するものが後を絶ちませんでした。
故郷の島に戻り、息子テレマコスと再会を果たしたオデュッセウスはその状況を聞き、
妻に言い寄る求婚者たちを成敗するため弓の競技会を開催します。
首尾よく勝利を収めたオデュッセウスがようやく得ることができた安息は、戦争へと旅立ってから何と20年後のことでした。


シャガールはこの長編叙事詩から霊感を受け、およそ二年の歳月をかけて43点の挿絵を制作。

本書は、1975年に250部限定で出版された挿画本に続き、シャガール死後の1989年に制作された復刻版。
シャガールの親しい友人であったドイツの出版人ギュンター・ブレーゼが、ヴァヴァ夫人(シャガールの2番目の妻)の許可を得て制作。
グラノリトと呼ばれる特殊な版画技法により、原版にも遜色ない美しい作品に再現されています。


「オデュッセイア」の最後で有名なエピソードが、20年ぶりに戻った男が本当に夫であるか確かめるため、ペネロペが一計を案じる一幕。
ペネロペは寝台を部屋から動かすように乳母に言いつけ、それに対しオデュッセウスがどう反応するかで夫の正体を見極めようとします。
乳母への命令に対し、オデッュセウスは「それは無理だ」と言い放ちました。
なぜなら二人は婚礼の際に、地面から生えるオリーブの木を支柱に寝台を設けたから。
当然、寝台は動かせません。
これは夫婦二人の秘密であり、ペネロペはこの答えを聞いてようやく夫であると確信したのです。

最愛の女性ベラ(1944年に死別した最初の妻)との思い出を作品に多く残したシャガールにとって、堅い絆で結ばれたオデュッセウスとペネロペの夫婦愛は深く共感するところがあったのでしょう。
そんな優しさと慈しみが伝わってくるような作品です。

シャガールの取扱作品はこちら

(R・K)