損保ジャパン日本興亜美術館「ユトリロとヴァラドン展」



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芸術家やアスリート、政治家などの遺伝子はその才能が親から子へ、と次の世代もまた同じ分野で才能を羽ばたかせることが多々あります。
彼らの多くは幼少から厳しい教育やトレーニングを受ける環境で育ち、父親や母親の背中を追いかけ一流を目指して日々鍛錬していく世界。

しかし、そうした親子の才能の絆とここまで境遇の変わった異質な画家親子も珍しいでしょう。

画家モーリス・ユトリロと、その母で同じく画家であったシュザンヌ・ヴァラドン。
数奇な運命に翻弄された「母と子」の物語に焦点を当てた美術展が、損保ジャパン日本興亜美術館で開催されています。


母ヴァラドンの本名はマリー=クレマンティーヌ・ヴァラドン。
意志の強そうなくっきりとした目元が印象的なその美貌で、シャヴァンヌやルノワール、ロートレックなど数々の画家たちのモデル(兼愛人?)を務めました。

「シュザンヌ」と彼女にあだ名をつけたのは、あのロートレック。
彼女よりも年長の老画家(シャヴァンヌは41歳上)たちを魅了するその姿を、旧約聖書外典の説話「スザンヌと長老たち」になぞらえ、皮肉を込めて「シュザンヌ」の愛称をつけたのです。
モデルを務める傍ら、次第に自らも絵筆を握るようになったヴァラドンは、見よう見まねでデッサンの力をつけていきました。
ヴァラドンの画風の特徴は、何といっても力強く正確なその描線。
彼女の画力を高く評価し直接指導もした巨匠ドガからの強い影響です。

ドガ以外にも、ゴーギャンの太い輪郭線やセザンヌの構図、アンリ・ルソーの色彩などを彷彿とさせる彼女の画風はしかし、画家「シュザンヌ・ヴァラドン」としての強烈な個性を放ち続けています。

一方のモーリス・ユトリロは、ヴァラドンの私生児として1883年に誕生。
ユトリロの姓は、後に息子と認知したスペイン人美術評論家ミゲル・ウトリーリョのものですが、実父は誰であったか。
その真相は今も謎に包まれています。

モデル業や画業に忙しく、さらに恋多き母を持った少年ユトリロ。
母親が近くにいない寂しさからか情緒不安定なことが多く、16歳頃に覚えた酒から、生涯苦しむことになるアルコール依存症に陥りました。

皮肉にも、これが画家ユトリロ誕生のきっかけ。
アルコール治療の一環として入院先で始めた絵画は、彼の心を一時的に落ち着かせる精神安定剤だったのです。

しかし、穏やかに素朴に描かれたモンマルトルの街並みは、人付き合いが苦手で、酒乱から奇行を繰り返した人物の作品とは思えないほど不思議な優しさに満ち溢れています。

思わぬ理由から絵筆を握り、画家としての才能を開花させた母息子。
二人の作品そのものの魅力とともに、互いが互いを必要とした不思議な”親子の絆”を存分に味わえる美術展でした。

また当店では、ユトリロの版画集やオリジナル版画をお取り扱いしております。
詳しくはこちらをご覧くださいませ。

(R・K)