ウィリアム・モリス×エドワード・バーン=ジョーンズ「チョーサー著作集」のご紹介

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ブログをお読みいただきありがとうございます。

「役に立たないもの、美しいとは思わないものを家に置いてはならない」

詩人・デザイナー・思想家・画家・出版者、と多方面にわたり活躍した、ウィリアム・モリスが残した言葉です。
“生活に即した芸術”を提唱し続けたモリスの言葉には、どんな想いがあったのでしょう。

19世紀後半のイギリス。
当時イギリスを筆頭にヨーロッパ各国は産業革命の発展により資本主義経済が確立。
国が大きく豊かになると同時に、ある弊害が生まれていました。
それは、機械での大量生産による粗悪な日用製品の氾濫。
そしてそれにより、次々と失われていった伝統的な職人技術(クラフトマンシップ)。

そうした状況に危機感を抱いたモリスは、”生活に必要なものこそ美しくあるべき”という理想の下、中世に作られた手仕事による美しい彩色写本の世界を意識した装飾で「生活の中の美」を追い求めました。

バーン=ジョーンズ(左)とモリス(右)

本日は、モリスが残した数多くの功績から、生涯の友であり続けた友人画家エドワード・バーン=ジョーンズと手がけた最晩年の傑作「チョーサー著作集」をご紹介します。
生活と芸術の一致を試みたモリスは、中世の精神に根ざした「理想の書物」を出版するため、1891年に印刷所ケルムスコット・プレスを設立。
手間と時間、そして情熱を注ぎこんだ手作りの美しい書物生産に明け暮れます。
この書物の制作のため、モリスは手漉き紙の種類や活字デザインを自ら選び、また表題や挿絵は友人のバーン=ジョーンズに依頼。
余白のサイズにもモリスの「美の黄金比率」が徹底的に反映された完璧な美書を目指しました。
そして、自身の芸術活動の集大成として最後に出版したのが、敬愛する14世紀の詩人ジェフリー・チョーサーの作品集「チョーサー著作集」です。


初版「チョーサー著作集」(1896)

 

 

モリスが亡くなる2年前の1896年にようやく完成した初版は、現在世界中で15部程しか現存しないと言われ、美術館や教育機関などが擁する一級の美術品。

しかし、この美しい書物は一般の愛書家や美術愛好家垂涎の的となり、1958年、1975年、2000年代に復刻されました。



当店が所蔵する作品は、専門家でも原本との見極めが困難な精巧さで最も完成度の高い復刻版といわれる1975年版。
また、出版元のバジリスク・プレスによる解説本が付いているため、難解な中世英語によるチョーサー作品の世界に近づけるような気がします。

制作年 :1975年(初版は1896年)
制作部数:515部
ページ数:554p
出版元 :バジリスク・プレス
サイズ :H44cm×W31cm×D11cm(解説本と合わせたサイズ)


「バースの女房の話」冒頭ページ
額装販売もしております(1958年復刻版)

 

この「チョーサー著作集」の内容は、チョーサーの有名な「カンタベリー物語」と数篇の詩で構成され、バーン=ジョーンズが描いた85枚の装飾的な挿絵が物語に臨場感をプラスしています。

ちなみに、上の挿絵は「カンタベリー物語」に収録されたバースの女房の話の一幕。
老婆が通りかかった騎士に何か言っているようですね。

(R・K)