トマサ・マルタン「秋のソナタ」のご紹介


こんにちは。
朝夕の冷え込みはまだまだ厳しいこの頃ですが、そろそろ春の訪れを告げる桜の開花が始まりますね。
満開の桜を愛でる日が待ち遠しくて仕方ありません。

さて、先月知人にご招待いただき、普段は縁のないクラシックコンサートを鑑賞してまいりました。
アマチュアのオーケストラとは思えない程本格的な演奏と楽団員の方々の熱気に、1分1秒も聞き逃せない!見逃せない!
そんな至福のひと時でした。

鑑賞中、ふと頭に浮かんだ絵画がありました。
デュフィの描いたオーケストラ作品。
それぞれの楽器から奏でられる一つ一つの音が共鳴し、美しく複雑な音色を生み出していき・・・
その「音」のハーモニーが、デュフィには調和しあう「色」に見えたのでしょうね。


ということで本日はその思い出にちなみ、オーケストラを構成するある楽器を描いた作品をご紹介します。


「秋のソナタ」
作者のトマサ・マルタンは1955年生まれ、スペインを拠点に活躍する女流画家です。

彼女の画風には、静物画や人物画などありふれたジャンルを手がけながらも強いオリジナリティを感じます。
近年の作品に好んで描かれる主題は新聞紙とコーヒー、ペンやメガネなど身近なモティーフを組み合わせた静物画。
しかし、雰囲気のある背景の質感や文化・芸術を話題にした新聞記事の描写により、日常的主題をモードに昇華しています。


本日ご紹介する「秋のソナタ」では、柔らかい空気の中に佇むヴァイオリンが主役。
トマサ・マルタンの優しい眼差しを感じるような温かさに満ちていますね。
まるで、美しいソナタを奏でた秋の夕べ。
休憩のため少しの間ヴァイオリンを置いて階下にコーヒーを淹れに行った一瞬・・・
と、そんな情景まで浮かんでしまうような。
主役の楽器とともに無造作に置かれているのは音楽関係の書籍でしょうか。

 

音楽が主題の絵画作品に、本や楽譜を描くことは決して珍しいことではありません。
例えばこちら。
バロック絵画の巨匠カラヴァッジョによる、「リュートを弾く若者」。
虚ろな表情でこちらを見つめる青年の手元には楽譜が見えます。


ロココ様式を代表する画家ヴァトーは、音楽によって愛を確かめ合うカップルを描いた甘美な作品「恋の音階」に楽譜を描いています。
女性がおもむろに広げた楽譜の旋律は何だか五線譜が読めそうなほどリアルです。


 

「楽器」と「楽譜(や音楽関係の書籍)」を作品に描きこむことで、鑑賞者にその楽器が奏でる音を想像させる。
それは、観る者の「視覚」に訴求するという絵画の単純な役割に加えて、「聴覚」に訴求するという画家の意図があるのかもしれませんね。

(R・K)