サルバドール・ダリの描く奇妙な象


こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

当店で現在好評開催中の「フランスポスター芸術世界100年展」。
出品作品の中でひと際目を引くちょっと変わったこちらの一点。
夢や無意識という深層心理を追求したシュールレアリスムの代表的画家、サルバドール・ダリの制作したサイン入りオリジナルリトグラフです。

ダリ「聖アントニウスの誘惑」(ベルギー王立美術館所蔵)

その名も「宇宙象(The Space Elephant)」。
象の半身に、細長い鳥のような足を持った奇獣、とも言えましょうか。
体も足もずっしり太い現実世界の「象」をよく知る私たちがこの宇宙象を目にすると、一瞬ぎょっとするような何とも言えない不安感に包まれる気がします。

実はこの作品、1946年にダリが描いた油彩作品「聖アントニウスの誘惑」に登場する象が元となっています。


「聖アントニウスの誘惑」は西洋のキリスト教絵画によく描かれる主題のひとつ。
昔々、まだキリスト教が公に認められる以前の3世紀のこと。
密かにキリスト教を信仰していた聖アントニウスは、財産を全て捨てて1人砂漠で修業生活を始めます。

禁欲的な隠者生活をするアントニウスの信仰心を試すために襲いかかってきたのは、奇怪な悪魔たちや女性の誘惑などの幻覚。
あらゆる手段を使ってアントニウスをそそのかすのです。
しかし、強い信仰によりそれらの誘惑をはねつけ、聖人として崇められるようになったアントニウス。

この場面を描いたのが「聖アントニウスの誘惑」であり、中世より多くの画家によって描かれてきました。
特に、疫病などが流行した中世の時代では守護聖人として人気を集めたそう。
この主題は画家にインスピレーションを与え、特に悪魔の描写などで個性が発揮できるテーマでした。

時代はめぐり20世紀。
20世紀美術はそれまでの慣習的な絵画表現やルールを越えて、芸術が大きく花開いた時代。
ダリはこの伝統ある西洋絵画の主題を独自に解釈し、独創的な象を生み出しました。
当初、アントニウスを誘惑する悪魔として描かれましたが、このモチーフを気に入ったダリは以後これを宇宙象と呼び、彫刻やジュエリー、版画などの作品にも仕上げています。 

今回出品しているポスターに描かれた象も、その姿は奇抜ですがあまり悪魔的な雰囲気はありませんね。
むしろ象に乗る人物は高らかにラッパを鳴らし、何か嬉しい出来事を告げているようにも見えるような・・・
非常に想像力を掻き立てられる一枚ですね!

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(R・K)