写実から抽象へ!ピカソ版画の進化過程

こんにちは。
ぐずついたお天気の一週間でしたが、本日はようやく晴れて過ごしやすい一日となりました。

さて、今日は本の中からピカソの版画についての面白いエピソードをご紹介。
ピカソといえば言わずと知れた20世紀を代表する天才芸術家ですが、彼はその生涯に2000点を越える版画を残したことをご存知ですか?

19世紀から20世紀にかけて版画の技術は大きく進歩し、多くの画家が油彩や水彩などの肉筆作品のみでなく、画商たちと協力しリトグラフを中心とした版画制作に傾倒。
ピカソはマティスやシャガールと並び、20世紀の版画普及に貢献した立役者の一人です。

ところで、版画に限らず、通常私たちが美術館や資料などで目にする作品はたいていが「完成した状態」ですよね。
しかし、例えば版画を例に挙げるなら、画家は納得するまで何回も試し刷りを行ない、微妙な色の配置や線のニュアンスにこだわるほど、これは大きな作業になっていきます。

つまり、この版画の刷り段階の過程では画家が最初版の前でどのようなイメージを持っていて、それがどのように変化して最終的な形になっていくか、という過程が分かるのです。
ある本の中で紹介していたピカソの版画「牡牛」は、その過程の変化が驚くほど劇的。

こちらをご覧ください。
当初、彼は写実的に描かれた牡牛をイメージしていたようで、下はその第一段階として摺られた作品です。

少し粗いタッチですが、牡牛の猛々しい感じがよく伝わります

その後、これは何かが違うと思ったのでしょうか。
ピカソらしいキュビスムを感じさせるようなやや抽象的な牡牛に変化します。

写実的ではなくなりましたが、牡牛ということはまだ分かります

さらに、試行錯誤を繰り返し9回(!)手を加えた後に完成したのがこちら。
全く簡略された線描きの牡牛になりました。
でも、「確かに何となく牡牛ぽい」と感じさせてしまうところこそ、ピカソが天才と言われる所以なのかもしれません。。。

特徴はつかんでいる気がします。。。

版画の制作過程は画家それぞれなので、直しをせずに一発で版を完成させてしまう画家もいますが、ピカソのようにじっくりとイメージと向き合い、自分の表現したいことを追求していく画家も多いです。

芸術家が創作した作品のいわゆる完成形だけでなく、こういった制作過程も知ることができたら芸術鑑賞も一段と楽しくなりそうですよね!
ちなみに、今回参考にした書籍は長谷川公之著『現代版画コレクター事典』です。
来月のポスター展ではピカソの制作したポスターも出品予定です。どうぞお楽しみに!

(R・K)