ルネ・ラリック「灰皿:VARESE」のご紹介

制作年:1929年
技法:パチネ

こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。

今回は、幾何学的で直線的なディテールを多用した、ユニークなフォルムの「灰皿:VARESE」をご紹介しましょう。
作者は、アール・ヌーヴォー時代に宝飾デザイナーとして、またアール・デコ時代にはガラス工芸家として一世を風靡した、ルネ・ラリック。

灰皿上面のデザインは、よく見ると絢爛たる羽根をいっぱいに広げる何とも愛らしい4対の孔雀で構成されています。
直線を強調した灰皿の造形と孔雀の羽根の丸い模様は、まさにアール・デコ様式の造形ですね。


芸術的センスと高い技術力で、時代の流行を的確につかむ作品を次々と発表したラリックは一体どのような人物だったのでしょう。

ルネ・ラリック

ルネ・ラリックは、1860年フランス北東部シャンパーヌ地方にある小さな村で生まれ育ちました。
彼に転機が訪れたのは父親が亡くなった16歳の時。
母親の勧めで宝飾商人に弟子入りし、夜間はパリの装飾美術学校に通い始めます。
その後ロンドンでも2年間学んだ後、宝飾デザイナーとしてのキャリアをスタートしました。 


当時、オペラ座やエッフェル塔が建造されるなど活況を呈していた芸術の都パリ。
元々才能能あるラリックですが、彼にとって幸運だったことは国際的に衆目を集める万国博覧会が1900年にパリで開催されたこと。

万博の陳列ケースに押し寄せる人々

その博覧会に出品したラリックの斬新なジュエリーは絶賛をうけ、展示ブースは連日人で溢れかえったといいます。
こちらはその時の様子を表現したフェリックス・ヴァロットンの木版画です。


さて、これだけの成功を収めながらもラリックは、なぜ宝飾デザイナーからガラス工芸家へと転身したのでしょう。

そのきっかけは、ヴァンドーム広場で店舗を構えていた香水商、フランソワ・コティに香水ボトルのデザインを依頼されたこと。

ラリックが手がけた芸術性の高いボトルに香水を詰めることで高級感が生まれ、消費者の購買意欲を訴求したこの斬新な試みは好評を博し、以降ラリックは本格的にガラス作品の制作に傾倒していきます。
(香水の歴史についてはこちらでも詳しくご紹介しております)

 

ルネ・ラリックの個性。
それは、直線や幾何学模様を強調するアール・デコ様式を基本としながらも、アール・デコの前に流行した、装飾的で曲線を多用したアール・ヌーヴォーのデザインを踏襲したこと。

動物や女性、植物などアール・ヌーヴォー様式で好まれたモチーフを棄却することなく、最先端の流行であったアール・デコに合うように再解釈し、単純・直線的なデザインを特徴とする造形美の中でリズミカルに生き返らせました。

ジュエリーデザイナーとしての卓越した経験と美的センスを武器に、ラリックが世に送り出したガラス工芸品は、歴史と伝統を踏まえた革新さで今日でも高い芸術的価値を認められています。

約100年前のデザインとは思えないほどシックで洗練されたラリックの作品は、ギャルリー・アルマナック吉祥寺でも、常時10点ほど展示販売。
是非、一度その美しい輝きをじかに味わいにいらしてください。
皆様のお越しを心よりお待ちしております。

ガラス工芸品のページはこちらをご覧くださいませ。

(R・K)