マルク・シャガール『エルサレム・ウインドウ』(エルサレムのためのステンドグラス)のご紹介

制作年:1962年
制作工房:ムルロ工房(パリ)
出版元:アンドレ・ソーレ(モンテカルロ)
著者:ジャン・レイマリー

こんにちは。
今月のギャルリー・アルマナック吉祥寺では、20世紀を代表する画家マルク・シャガールを特集しております。

パリを舞台に活躍したエコール・ド・パリ派の巨匠マルク・シャガール(1887-1985)。
パリのオペラ座天井画やニューヨークのメトロポリタン劇場の壁画など公共の建築物にも大作を数多く残しましたが、イスラエルの首都エルサレムにあるユダヤ教会に、彼が手がけた光り輝くステンドグラスが存在するのをご存知ですか?

1959年。
ユダヤ教の新しい教会の建設が決まり、内装のステンドグラスのデザインを依頼されたシャガールは、自身が深く信仰するユダヤ教の聖典「旧約聖書」を題材に、見事な色彩と迫力ある描写で精神性の深い12枚のステンドグラスを生み出しました。

このステンドグラスが12枚なのにはある理由があります。
それは、旧約聖書に出てくるヤコブの12人の息子を祖とするイスラエル12部族のそれぞれをモティーフにしているため。
旧約聖書の登場人物は多岐にわたり非常に複雑なので、略図をご用意しました。

旧約聖書の冒頭は天地創造から始まる「創世記」。
間もなく最初の人類であるアダムとイヴが誕生するも、神の命に背いた二人(原罪)は楽園追放。
その後、彼らの子孫の物語へと展開します。
有名な「ノアの箱舟」の後に生き残ったのがアダムとイヴの子孫ノア。
彼は、アダムに代わる新しい人類の祖とされ、さらにノアの息子の一人セムの子孫が、ユダヤ教・イスラム教・キリスト教を信じる民の祖と呼ばれる「アブラハム」です。

そしてややこしいですが、彼の孫ヤコブの12人の息子は、ヤコブが後に改名した「イスラエル」という名からイスラエル12部族の基礎となりました。
旧約聖書の世界では、この後に12人の息子の一人ヨセフがエジプトへ行きファラオに仕え、有名なモーセによる出エジプト、ダヴィデ王とソロモン王によるヘブライ(イスラエル)王国の衰・・・・と進行します。


(上)下絵3点組 (下)左より「ベンヤミン族」「アシェール族」「ユダ族」

シャガールは、ヤコブがこの各部族の祖になる12人の息子に託した言葉からインスピレーションを受けてステンドグラスを制作。

光が差し込むというステンドグラスの特徴を活かし、青や赤、緑や黄色などの美しい色彩を背景に、鳥や魚、馬が宙を舞う様子やところどころに散りばめられたヘブライ語の文字。
シャガールらしい幻想的な世界は信者を惹きつけたことでしょう。


当店ではシャガールが制作に関わったリトグラフを取り扱っており、それらはこちらの版画集『エルサレム・ウインドウ』に収録されていたもの。
教会の完成を記念して1962年に刊行された版画集で、リトグラフの他に、制作中のシャガールの写真や題材となった各イスラエル12部族について細かく記された貴重な資料です。
上部に丸みのあるステンドグラス独特の形が珍しく、非常に人気の高い本作。


特に、版画集に特別収録された小さな下絵3点組はお部屋のインテリアにも合わせやすい作品です。
12部族分を蒐集されている方もいらっしゃるほどです。
ちなみに、このステンドグラスは実際にエルサレムの教会で今も鑑賞可能。
光が差し込むと、より崇高で神々しい空間になることでしょうね。


<額付販売作品一部>

また、シャガール他作品はこちらでもご紹介しております。

(R・K)