ユトリロ版画集『モンマルトル・ヴェキュ』『霊感の村』『モーリス・ユトリロ・V』のご紹介

こんにちは。
ブログをお読みいただきありがとうございます。現在当店ではユトリロ展が好評開催中です。
そこで本日は、ユトリロ自身も制作に関わった稀少なリトグラフ版画集をご紹介しましょう。


モンマルトル・ヴェキュ

まずは、1947年に出版された『モンマルトル・ヴェキュ』。

本作は、詩集『ボヘミアン生活とわが心』や、ヴィヨン、ヴェルレーヌらの伝記作家としても知られるアカデミー・ゴンクール会員のフランシス・カルコ(1886-1958)による友人ユトリロの評伝と、各章の挿絵として描かれたユトリロによる版画22点が収められた作品集です。
モンマルトル界隈の小路や教会、学校などきわめてありふれた風景でありながら、穏やかな画面は詩情に満ち、観る者を捉えて離しません。
モンマルトルで生まれ、モンマルトルに生きたユトリロの人生を体現したような作品。

出版元 :エディション・ペトリデス(パリ)
制作年 :1947年
制作部数:240部
制作工房:ムルロ工房
テキスト:フランシス・カルコ

年季の入った表紙
限定240冊のうち13冊目であることが表記されています


フランシスコ・カルコによる美しい文章の隣にユトリロの版画が添えられています
最初の15部限定で特別収録された高級和紙刷り版。光沢感がありますね


<額付販売作品一部>

「テルトル・ホテル」
「レストラン・トゥレル」



霊感の村

続いては1950年出版の『霊感の村』。
霊感というと怪しい感じに聞こえますが、ユトリロが感じたインスピレーションやスピリットが息づく村モンマルトルに1920年から1950年にかけて去来した芸術家たちの人間模様などを綴った年代記です。
著者のヴェルテックスはユトリロやその母で画家、シュザンヌ・ヴァラドンとも交友があり、ユトリロの周辺を中心にしたモンマルトルの魅力が生き生きと伝わります。
ユトリロのグワッシュ画12点に基づくポショワール版画の他にも、ユトリロの母シュザンヌ・ヴァラドンらのデッサンに基づくリトグラフも収録。
版画の制作は著名なダニエル・ジャコメ工房で行われ、手作業による彩色が原画の筆遣いをそのままに伝えています。

出版元 :シェ・ロトゥール(パリ)
制作年 :1950年
制作部数:490部
制作工房:ダニエル・ジャコメ
テキスト:ジャン・ヴェルテックス

ユトリロ版画集の中でも特に人気の高い作品
こちらはユトリロが生涯敬愛した母シュザンヌ・ヴァラドンの自画像


ユトリロやピカソらゆかりのシャンソン酒屋ラパン・アジル。150部限定で味のあるモノクロ版も収録

<額付販売作品一部>

「モンマルトルの小径」
「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」(モノクロ版)



モーリス・ユトリロ・V

最後にご紹介するのは1955年に亡くなったユトリロの遺作を集めて翌年に出版された追悼版画集『モーリス・ユトリロ・V』。
未完の1点を含むユトリロの11点の作品と、母シュザンヌ、妻リュシーの作品それぞれ1点づつが収められています。
フランス演劇界の重鎮サッシャ・ギトリを筆頭に、ジャン・コクトー、アンドレ・モロワら有名作家がユトリロへのオマージュを込めた追悼の文章を寄せており、ユトリロが芸術界にもたらした影響の大きさがうかがえます。
また、ユトリロがそのサインでも名前の最後に用いている「V」は母シュザンヌ・ヴァラドンのイニシャル「V」です。
私生児として生まれ、本当の父親(諸説あり)からの愛を受けられずに育ったユトリロ。
奔放な母親にも振り回され、孤独と人間不信でアルコールに溺れたその一生で、それでも生涯慕い続けた、ユトリロにとってただ一人の「聖女V」が母シュザンヌ・ヴァラドンだったのです。

出版元 :ジョゼフ・フォレ(パリ)
制作年 :1956年
制作部数:197部
制作工房:ムルロ工房

追悼の文章を寄せた錚々たるメンバーがずらり
その波乱の生涯とは裏腹に優しい色合いの作品が多いことに驚きます


<額付販売作品一部>

「雪のラパン・アジル」
「雪のムーラン・ド・ラ・ギャレット」


今回ご紹介した版画集はもちろん店内でもご覧いただけます。
また、お取り扱い中の他ユトリロ作品はこちら
皆様のご来店を心よりお待ちしております。


(R・K)